- 退職金が過去10年で約500万円減るなど、老後資金の環境は変化している
- 60代の平均貯金額は1,461万円、中央値は810万円
- 繰り下げ受給やiDeCo、つみたてNISAなどが老後資金対策に有効
60歳といえば定年退職を迎える年齢であり、すでに「老後」が始まっている方も少なくありません。しかし、ひと昔前に比べて税金が上がっていたり年金額が減っていたりと、老後生活を取り巻く環境は悪化しています。
実際、60歳を過ぎても老後資金のために働き続ける方もいるでしょう。ただ、それと並行して資産運用を行うことも重要です。
そこで今回は、60歳の老後資金事情の変化と、60歳からでも始められる資産運用や資金調達の方法を解説します。
目次
60代の老後資金事情は大きく変化している
以前は「定年まで勤めあげれば老後は安泰」と言われていた時代もありましたが、現在は必ずしも安泰とはいえません。
老後資金に不安を感じてしまう要因について紹介します。
退職金は10年で500万円近くが減額に
厚生労働省「就労条件総合調査」によると、大卒・大学院卒(管理・事務・技術職)の退職金の平均は1,788万円でした。同資料によれば2008年(平成20年)の退職金は2,280万円になっています。
参考 就労条件総合調査:結果の概要厚生労働省大卒の場合、何と10年で500万円近くも退職金が減っているということです。
年金の受給開始年齢は60歳が65歳に
1985年の法改正によって厚生年金の受給開始年齢がそれまでの60歳から65歳に引き上げられました。
特別支給の老齢厚生年金が設定されたため、いきなり60から65歳になるわけではありませんが、それでも段階的に支給開始年齢が引き上げられています。
画像引用:日本年金機構
ただし、2021年4月2日以降(昭和36年4月2日以降生まれ)に満60歳を迎えた男性の場合、特別支給の老齢厚生年金は支給されません。60歳前半では(基本的に)年金を全く受け取れなくなってしまったのです。
老後も働く60代は増加傾向にある
以前に比べて退職金の水準は減少し、年金の支給開始年齢も65歳に後ろ倒しが進む中で、現役世代と同じ生活水準を目指すなら給与収入を増やすことになるでしょう。
政策の後押しもあり、働く60代の人数は徐々に増加しています。
総務省統計局の労働力調査によれば、2011年から2021年にかけて65歳以上の労働力人口は584万人から929万人と大きく増加しています。
参考 労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果の概要総務省統計局2021年に改正された高年齢者雇用安定法では新たに「65歳から70歳までの就労機会確保」が企業の努力義務になりました。もともと65歳まで雇用確保措置が義務づけられていましたが、今後は65歳以降70歳未満の人が働ける環境作りがさらに整備されていくでしょう。
そうなれば65歳以上の就業率は今後もさらに増加することも考えられます。
60代の平均貯金額はいくら?
厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概況」によると、60~69歳の平均貯金額は1,461.7万円です。
50代の貯金額が1,075万円であることを考えると、60代は現役世代と比較して貯金ができている方が多いことがわかります。
ただし、「平均額」は一部の大きな数字に引っ張られる可能性があります。平均と合わせて中央値も理解しておきましょう。
中央値は、データを小さい順に並べたときに真ん中に位置する数字です。
家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和3年)によれば、60代の平均貯金額は2,427万円と厚生労働省のデータよりも高い値ですが、中央値は810万円となっています(金融資産を保有していない世帯を含む)。
参考 家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査] 令和3年金融広報中央委員会平均に及ばないとしても悲観する必要はありませんが、60代は「借入金が減少している」「労働できる条件が整っている」という点から、まだまだお金を貯めることができる時期です。
60歳からでもできる老後資金の貯め方
貯金の平均値や中央値と比較して自身の貯金が少なくても悲観する必要はありません。とはいえ、本格的な老後を迎える前に少しでも多く貯金できるように今から対策を考えましょう。
ここでは60歳からでも始められる資産形成や、老後資金を調達する方法を紹介します。
できるだけ長く働いて貯金する
現在は65歳までの雇用が企業に義務づけられていますが、今後は法改正を受けて70歳まで働く環境が整ってくるはずです。
働けるうちは働いて貯蓄することは老後資金対策として重要です。働いているうちは貯蓄を取り崩さずに生活できます。60歳以降に厚生年金に加入して保険料を納めることで、受け取る年金額を増やすことも可能です。
定年後の再就職に役立つ資格などの情報については以下の記事で詳しく解説していますので、本記事と合わせて参考にしてください。

iDeCoに加入する
iDeCoは「個人型確定拠出年金」のことで、年金とは別に毎月の掛け金を積み立てて運用することで老後の備えにできる私的年金制度です。
60歳になるまでは引き出せないデメリットがある一方で、以下のように多くのメリットを享受できます。
- 掛け金の全額が所得控除
- 運用益が非課税
- 受け取り時も有利な税制が適用される
拠出した掛け金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象になり、所得税・住民税が減額されます。運用期間中は通常20.315%を支払う利息や配当金の源泉分離課税が非課税になり、受取時に一括課税されます。
受取時の課税で有利な税制が適用される点も特徴です。一時金で受け取るなら退職所得、年金で受け取る場合は公的年金等控除が適用されます。
従来のiDeCoは60歳未満の方しか加入できませんでしたが、2022年5月1日からは60歳以上の方でも国民年金の第2号被保険者または国民年金の任意加入被保険者であれば64歳までiDeCoに加入できるようになります。
60歳からiDeCoに加入しても投資商品の利益が非課税になる期間が若い世代よりも短いですが、掛け金が全額所得控除になるメリットは得られます。
毎月2万円を拠出した場合、所得税率10%の方なら住民税と合わせて1年で48,000円の節税になる計算です。
つみたてNISAは年齢制限がない
つみたてNISAは積立投資専用の少額投資非課税制度です。毎月一定額が口座から引き落とされ、自身で選んだ金融商品が自動的に買い付けされます。
通常は投資で得た利益に20.315%が課税されますが、つみたてNISAを利用することで年間40万円までの拠出額について最長20年も非課税の恩恵を受けられます。
投資信託やETF(上場投資信託)という金融商品を扱うため元本は保証されていませんが、預金よりも大きく資産を増やせる可能性があることがメリットです。
iDeCoと違って年齢要件もないため、60歳以降でも資産運用として活用できるでしょう。
リバースモーゲージを活用する
リバースモーゲージは、所有する自宅を担保に融資を受け、お金を借りた方が死亡したあとに担保不動産の売却で一括返済する仕組みです。
自宅を担保にする点は住宅ローンに似ていますが、返済方法が大きく異なります。リバースモーゲージは自宅の評価額から決められた融資額のなかで一括または月々の融資を受け、生存中は利息のみ返済する仕組みです。
売却してお金を手に入れる方法とは違い、住み慣れた自宅を離れることなく生活資金が手に入ることも特徴です。
ただし、利用者が死亡した後は推定相続人が残債の返済を行うため、申し込みには推定相続人の同意を得る必要があります。
リースバックを活用する
自宅から転居することなく老後資金を調達する方法として、リースバックもあります。リースバックは自宅を所有から「リース(賃貸)」に切り替えることです。自宅をいったん売却してまとまった資金を手元に置き、家賃を支払いながら住み続けられます。
自宅を担保にお金を借りるリバースモーゲージとは、所有権を手放す点で違いがあります。その分、年齢制限や収入要件、用途制限が緩いことがメリットです。
年金の繰り下げ受給を検討する
年金を繰り下げ受給することで繰り下げ期間1ヶ月につき0.7%が増額されます。5年間繰り下げして70歳から受け取りにすれば42%が増額される計算です。
さらに2022年4月からは75歳まで繰り下げが可能になりました。75歳まで繰り下げた場合、増額率は最大で84%です。
「いつから受け取るのがお得なの?」と疑問を感じた方は、以下の記事も併せてご覧ください。

まとめ
今回は、60代の老後資金事情の変化と、60歳からでも始められる資産運用や資金調達の方法を解説しました。
60代の貯金額の中央値が800万円と聞くと不安に思うかもしれませんが、今からでも資産形成を行うことは可能です。「できるだけ長く働く」を基本として、iDeCo、つみたてNISAをはじめとした効率的な資産運用に取り組みましょう。
老後資金がどうしても足りない場合はリバースモーゲージ、リースバックなどを使って資金を確保することも1つの方法です。
50歳で考えたい老後資金についても以下の記事で紹介しています。この機会に参考にしてみて下さい。


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