厚生年金保険に加入している大黒柱である夫が亡くなった場合、残された遺族は遺族年金を受給することになります。ただ、「どれくらいの金額を受け取れる?」「夫が亡くなっても生活できる?」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、遺族年金の受給要件や、受給額の計算方法について解説します。
目次
夫が死亡した後に受け取れる「遺族年金」とは
遺族年金は、被保険者が亡くなった場合に生計を維持されていた遺族が受け取れる年金のことです。
まずは、夫が亡くなった際に受け取れる年金の全体像を把握しておきましょう。
遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類がある
遺族年金は「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」に分かれています。自営業などが加入する国民年金は遺族基礎年金だけが対象ですが、会社員・公務員が加入する厚生年金保険は両方が対象に含まれます。
遺族年金を受け取るための要件
遺族年金を受け取るための要件を遺族基礎年金・遺族厚生年金の順番で解説します。
遺族基礎年金の要件
遺族基礎年金は子のある配偶者または子が受け取れる遺族年金です。
受給要件をまとめると、以下のとおりです。
- 被保険者または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上の方が亡くなった場合
- 死亡日の前日時点で、保険料の免除期間を含めた納付済期間が加入期間の3分の2以上あること
「子」にも要件があり、高校卒業までの未婚の子どもや障害等級1・2級の状態にある20歳未満の子どもが対象です。
子どもがいても高校を卒業している場合や、子どもがいない家庭では受給できません。
遺族厚生年金の要件
遺族厚生年金の場合、子どもの有無は問われません。夫が厚生年金保険に加入していて、条件を満たす妻が受給できます。
国民年金にしか加入していない自営業者の妻は、夫が死亡しても遺族厚生年金は受け取れません。
受給額は死亡した方の標準報酬月額と厚生年金保険への加入期間によっても異なり、人によって変わるので一概には言えません。
参考までに厚生労働省年金局「令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、遺族厚生年金の受給者平均月額は8万2,947円でした。
参考 令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 厚生労働省年金局なお、高校を卒業した子どもがいる妻、子どものいない妻は中高齢寡婦加算によって支給額が加算され、40~65歳までのあいだに年間58万3,400円が支給されます。
参考 遺族年金ガイド日本年金機構遺族年金を受け取るための手続き方法
遺族基礎年金だけを受け取る場合は市区町村役場の窓口で手続きを行います。
「基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類」
「戸籍謄本」「世帯全員の住民票の写し」「死亡者の住民票の除票」などいくつもの書類が必要なため、できるだけ早めに準備を進める必要があります。
詳しくは日本年金機構で確認してみてください。
参考 遺族基礎年金を受けられるとき日本年金機構遺族基礎年金と遺族厚生年金を両方受け取る場合、遺族基礎年金と同じ書類を持参のうえ「年金事務所」に提出します。
遺族年金制度における遺族給付制度とは
遺族給付制度とは、第一号被保険者として保険料を支払っていたにも関わらず年金を支給されないという場合の救済措置として、「寡婦年金」「死亡一時金」のどちらかを選んで受け取る制度です。
第一号被保険者とは、日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の自営業者や農業・漁業者、学生等とその配偶者を指します。
寡婦年金
寡婦年金とは、夫に先立たれた妻が60歳から65歳の間に、本来夫が受給するはずだった老齢基礎年金の75%を受給する制度です。
支給を受けるための要件
- 死亡した夫が死亡する前月までに保険料納付済期間と保険料免除期間を合算して10年以上あること
- 死亡した夫が老齢基礎年金や障害基礎年金等を受給したことがないこと
- 死亡した夫と10年以上の婚姻関係があること
- 夫の死亡時の年齢が65歳未満であること
- 夫の死亡当時、夫によって夫婦の生計が維持されていたこと
- 夫の死亡後5年以内に請求していること
- 65歳未満の寡婦であること(再婚した場合は受給権が執権します。)
支給金額
本来は夫が受給するはずだった老齢基礎年金の75%が支給額となり、亡くなった夫が保険料を30年間きちんと納付していた場合はおよそ45万円程度になります。
死亡一時金
死亡一時金とは遺族が、配偶者が保険料を納付していた月数に応じた支給金を受給する制度です。
支給を受けるための要件
- 死亡した配偶者が死亡する前月までに36月(3年)以上保険料を納付していること
- 死亡した配偶者が老齢基礎年金や障害基礎年金等を受給したことがないこと
- 夫の死亡後2年以内に請求していること
支給金額
死亡した配偶者の国民年金保険料の納付期間と免除期間の合算月数によって変わり、上限は32万円です。
夫が死亡後に受け取れる遺族年金の計算方法
65歳を境に年金の受給方法が変わる厚生年金について、「65歳まで」「65歳以降」の2つに分けて計算方法を解説します。
加えて条件を満たすこどもがいる世帯に向けて、遺族基礎年金の計算方法も解説します。
65歳までの遺族厚生年金
65歳までの遺族厚生年金の受給額を計算する方法は以下のとおりです。
(遺族厚生年金額)=(夫の老齢厚生年金の報酬比例部分)×3/4
+(中高齢寡婦加算・58万3,400円)
報酬比例部分は夫が老齢基礎年金を受給中か受給前かで確認できる場所が異なります。
老齢年金をすでに受給している場合は「年金証書」「年金決定通知書」「支給額変更通知書」で確認できます。
老齢年金の受給前であれば「ねんきん定期便」「ねんきんネット」が必要です。
中高齢寡婦加算は、遺族の妻であれば誰でも受け取れるわけではなく、以下の条件を満たす必要があります。
【中高齢寡婦加算の支給条件】
●夫が死亡した時点で妻が40歳以上65歳未満で、生計を同じくする子どもがいない場合。
●遺族厚生年金と遺族基礎年金を受け取っていた子のある妻(40歳に達した当時、子がいるため遺族基礎年金を受けていた妻限定)が、子が18歳になった年度の3月31日を迎えた(障害の状態にある場合は20歳に達した)ことで、遺族基礎年金を受け取れなくなった場合。
65歳以降の遺族厚生年金
65歳以降の遺族基礎年金は、以下のように計算します。
(遺族厚生年金額)=(夫の老齢厚生年金の報酬比例部分)×3/4+(経過的寡婦加算)
経過的寡婦加算は65歳まで受け取っていた中高齢寡婦加算に代わり加算される一定額のことです。遺族厚生年金を受けている妻が65歳になり、老齢基礎年金を受給できるようになったときに、中高齢寡婦加算に代わって支給されます。
ただし、経過的寡婦加算は昭和31年4月1日以前に生まれた妻だけが対象になる制度です。それ以降に生まれた方は加算されません。
また、老齢厚生年金を受け取る妻は、上記の計算式で得られる金額から自分の老齢厚生年金を差し引く金額が支給されます。
自営業の方が亡くなった場合
自営業の方は第1号被保険者に該当し、国民年金にしか加入していないため、国から受けられる支給が少なくなってしまいます。
第1号被保険者の死亡時に遺族が受給できる可能性がある遺族給付制度を紹介します。
- 寡婦年金
- 死亡一時金
寡婦年金と死亡一時金はいずれか一方を選択
- 遺族基礎年金
- 遺族厚生年金
- 中高齢寡婦年金
遺族基礎年金の計算方法
高校を卒業する前の子どもがいる家庭で、死亡した夫が会社員・公務員だった場合は遺族厚生年金に加えて遺族基礎年金を受け取れます。
遺族基礎年金の受給額は「77万7,800円+子の加算」(令和4年4月分から)で計算します。子の加算は、第1子・第2子がそれぞれ22万3,800円、第3子以降は各7万4600円です。
遺族基礎年金の計算例を以下に記載します。
- 子ども1人:年額1,001,600円(77万7,800円+22万3,800円)→月額8.3万円
- 子ども2人:年額1,225,400円(77万7,800円+44万7,600円)→月額10.2万円
- 子ども3人:年額1,300,000円(77万7,800円+52万1,200円)→月額10.8万円
(旧)遺族共済年金とは
遺族共済年金とは、公務員が亡くなった際に受給権が発生した遺族年金のことです。
遺族共済年金の旧制度は平成27年までの運用で、現在は遺族厚生年金に統一されています。
制度改正前に受給権が発生した場合は現在でも各共済組合に申請する必要があります。
制度改正後に受給権が発生した場合は遺族共済年金ではなく、遺族厚生年金の手続きが必要となります。
(旧)遺族共済年金の受給条件
(旧)遺族共済年金の受給条件は下記となり、いずれかに該当する場合に受給権が発生します。
- 組合員である方が亡くなったとき
- 組合員であった間に初診日があった傷病が原因となり、退職後に初診日から5年以内に亡くなったとき
- 障害が1〜2級の障害共済年金または1〜3級の障害年金を受けていた受給権者が亡くなったとき
- 25年以上組合員でいた方、または退職共済年金等を受けていた方が亡くなったとき
遺族共済年金を受給するには年間収入850万円未満という収入制限があり、かつ公務員の共済年金に加入していた人に生計を維持されていた遺族である必要があります。
また、遺族の中にも優先度があり、下記の中で一番順位が高い人が受給することなります。
- 配偶者(ただし夫の場合は55歳以上)、子ども
- 父母(55歳以上)
- 孫
- 祖父母(55歳以上)
「子ども」と「孫」に関しては、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
- 18歳到達年度の末日を経過していない、かつ配偶者がまだいないこと
- 死亡した当時から引き続き1〜2級の障害にあること
(旧)遺族共済年金の支給年金額
(旧)遺族共済年金の支給年金額は、短期要件と長期要件のいずれに該当するかによって計算方法が異なりますが、基本的には
「支給年金額」=「厚生年金相当部分」+「職域加算部分(+中高齢寡婦加算額)」
となります。
目安の支給額を以下にまとめます。
賞与を含む平均月収 | 目安支給額(年額) |
20万円 | 29万円 |
25万円 | 36万円 |
30万円 | 44万円 |
35万円 | 51万円 |
40万円 | 59万円 |
45万円 | 66万円 |
50万円 | 73万円 |
55万円 | 81万円 |
60万円 | 91万円 |
遺族年金について知っておきたい注意点
遺族年金を受け取ることで夫が亡くなったあとの生活がある程度保証されますが、事前に知っておきたい注意点もあります。
離婚した元夫が死亡しても受け取れない
過去に扶養してくれていた元夫(離別した配偶者)が亡くなった場合、遺族年金は受給できません。
18歳の誕生日を迎える月が含まれる年度末までなら、子どもが遺族基礎年金を受け取ることは可能です。ただし、子どもでも絶対に受け取れるとは限らない点に注意が必要です。
代表的なのは「再婚相手と元配偶者の双方に子どもがいるケース」です。遺族基礎年金は子のある配偶者が優先されるため、この場合は再婚相手に優先的に支給されます。再婚相手が何らかの事情で遺族年金が支給停止などにならない限り、元配偶者の子どもは遺族基礎年金を受け取れません。
年金以外に収入があると確定申告が必要
遺族年金自体は非課税で、確定申告を行う必要はありません。働いて得た収入やほかの年金とは異なり、確定申告の対象からは除外されます。
遺族厚生年金には「中高齢寡婦加算」などの制度もありますが、この加算分も非課税です。
ほかの雑所得で課税対象であれば確定申告の対象に含まれますが、他の所得で申告する必要があるとしても遺族年金は非課税なので申告する必要はありません。
ちなみに老齢年金の場合、年金は「雑所得」として課税対象であり、所得税が非課税でも住民税の確定申告は必要です。
以下の記事では老齢年金を受け取って住民税の確定申告を行う場合に利用できる便利な速算表と計算方法を解説しているので、こちらも併せてご覧ください。

まとめ
本記事では、遺族年金の受給要件や、受給額を計算するための方法について解説しました。
遺族基礎年金は金額がある程度決まっていますが、遺族厚生年金は亡くなった夫の収入によっても左右されます。計算方法を把握して、ご自身で計算してみましょう。
ちなみに、定年退職後に海外移住を希望している場合でも、10年以上年金保険料を納めていれば支給対象に含まれます。以下の記事に海外移住希望者向けの年金について記事になっているので、興味があればぜひご覧ください。


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