- 高齢になるとさまざまな原因で意欲が低下することが多い
- 高齢者の意欲低下は老人性ウツ・認知症の可能性もある
- 意欲が低下した高齢者に対してできることがある
高齢者の意欲低下は、心と身体の機能低下を引き起こす要因になります。
高齢になると「やる気が出ない」「何も楽しめなくなった」と意欲が低下する高齢者は大変多いですが、その高齢者に長く自立した生活を送ってもらうためには、少しでも低下した意欲を再び上げてもらわなければいけません。
今回は高齢者の意欲が低下する原因を5つとりあげ、意欲低下が起こった高齢者に対してできる対応のポイントを解説します。
高齢者の意欲低下が起こる原因は5つ
やる気を起こさない高齢者に対して、家族など身の回りの人が「しっかりして」「気の持ちようでしょ」などと、つい高齢者を責めてしまうシーンも見受けられます。
しかし、高齢者の意欲低下は、本人でもどうしようもないさまざまな原因により起きていることも多いです。
以下からは、高齢者の意欲低下が起こる原因を5つ説明します。
- 離職や社会活動の停止
- 病気などによる体調不良
- 身近な人との離別・死別
- 老人性ウツ
- 認知症によるアパシー
1.離職や社会活動の停止
仕事を生きがいにしていた人が定年などの理由により離職すると、生きがいを失ったために意欲が低下しがちです。
これまで所属していた社会的グループから離脱した不安感もあいまって、自分の価値を見出せなくなってしまうこともあります。
これは、給料を得る仕事だけとは限りません。これまで地域活動やボランティアなどの社会活動に励んできた人が、加齢により活動を続けられなくなった場合にも同じ意欲低下が起きることが考えられます。
離職や社会活動の停止が原因で起きる意欲低下は、身体に無理のない仕事を継続すれば回復できる可能性があります。以下の記事では後期高齢者でも働きやすい職種などをご紹介していますので参考にしてください。
2.病気などによる体調不良
風邪をひくなど病気になったときには、誰でも気持ちが落ち込みます。
それは高齢者でも同じです。高齢者の場合には病気でなくても身体が思うように動かせなくなったり、日常的に体調不良を感じたりすることが多いため、身体の不調が気持ちにも影響して意欲低下を引き起こす原因になります。
また高齢になると病気になる確率が上昇します。脳卒中などの病気にかかった後、リハビリをすすめても「どうせ元に戻らない」と回復の努力を放棄してしまう高齢者は、決して少なくありません。
3.身近な人との離別・死別
親や兄弟、配偶者などの身近な親族を亡くした人は、悲しみのあまり生きる意欲まで低下してしまう場合があります。
令和元年版自殺対策白書によれば、60歳以上の男性の自殺率は有配偶者が人口10万人あたりに対して20.2人であるのに対して、配偶者と死別した人は人口10万人あたり51.5人と、2倍以上も高いことが報告されています。
60歳以上の女性1.5倍高くなるため、配偶者との死別に伴う高齢者の意欲低下は性別に関わらず自殺の危険性があります。
参考
超高齢社会における死別とグリーフケア「日本老年看護学会第 25 回学術集会」特別講演
家族を亡くした遺族の悲しみを和らげることをグリーフケア(悲嘆ケア)と呼びます。グリーフケアの必要性と具体的な方法については以下の記事をご覧ください。
4.老人性ウツ
高齢者の意欲低下が、老人性ウツである可能性も考えられます。
老人性ウツになる原因は社会活動の停止などの環境的要因や、体調不良や死別による心理的要因が主だと言われています。
ですが、老人性ウツには服薬の影響やセロトニンなどの脳内物質が機能しなくなる身体的な要因も考えられます。
ウツはどの高齢者でも起こり得る病気だと理解しておきましょう。
老人性ウツでは希死念慮(死にたいと思うこと)が症状として現れるため、老人性ウツによって意欲低下している高齢者には注意が必要です。
高齢の家族が「死にたい」と言い出すなど希死念慮が見られたら、早急に精神科や心療内科などの受診をおすすめします。
5.認知症によるアパシー
認知症の症状のひとつに「アパシー(無気力)」というものがあります。
アパシーとは何事にも興味を失い、やる気が出なくなった状態です。老人性ウツとよく似ているため混同されがちですが、認知症によるアパシーでは希死念慮(死にたいと思うこと)がほとんど起きない点が異なります。
意欲低下が起きている高齢者が認知症になっているかどうかは、スクリーニングテストやMRI検査などの認知症検査によって判断できます。認知症について知りたい人は以下の記事も参考にしてください。
意欲低下の原因によっては薬で治療も可能
高齢者の意欲低下の原因が環境的要因や心理的要因である場合には、残念ながら病院に言っても問題は解決しません。
しかし原因が老人性ウツである場合には、抗不安薬などの投与により治療が可能です。また認知症についても進行を抑えられる治療薬が存在しています。
意欲の低下が深刻だと思われるときには老人性ウツもしくは認知症を疑い、治療の手立てを医師と相談しましょう。
意欲低下が起きた高齢者への対応・改善のポイント
以下からは、環境的要因(離職など)や心理的要因(病気の不安・死別など)によって生きる意欲が低下した高齢者に対して、どのように接していけば良いかの対応とポイントを解説します。
■意欲向上のための対応
- 気持ちに寄り添う
- 声かけのしかたを工夫する
- 身だしなみを整えてあげる
- 人との関りを増やす
- 日課表を作る
気持ちに寄り添う
意欲が低下した方に「考えすぎだよ」「頑張って」との叱咤激励は、かえって逆効果になるケースがあります。
意欲低下した高齢者の気持ちを否定してしまうような励ましは避け、まずは相手の気持ちに寄り添って不安な気持ちに耳をかたむけましょう。
気持ちに寄り添い相手の話を心から聞く行動を「傾聴(けいちょう)」と言います。
NPO法人シニアライフセラピー研究所の傾聴推進プロジェクトでは、傾聴力を上げるためのポイントをYouTube動画で配信しています。傾聴の方法をきちんと知りたい方は参考にしてください。
声かけのしかたを工夫する
散歩や買い物などの外出は気分が変わるきっかけにもなりますし、生活リズムを整える手段にもなります。
しかし出かける意欲が低下しているときに外へ連れ出そうと誘っても、思うようには腰が上がりません。
そのようなときには無理やり外へ連れ出そうとせず、しばらく時間をおいてから再び声かけをするか、あるいは他の人に声かけしてもらうなど声かけのしかたを工夫しましょう。
あくまでも高齢者本人のペースに合わせることが肝心です。
身だしなみを整えてあげる
気持ちが落ち込むと身だしなみを整える意欲も低下しがちです。
しかし、乱れた身なりでいるとさらに気持ちの落ち込みが激しくなります。意欲が低下して身だしなみを整えることが難しい高齢者には、毎日身なりを整える手伝いをしてあげましょう。
特に女性は、年齢にかかわらず化粧をすると気持ちが華やぎます。高齢女性に化粧をほどこして前向きな精神状態を作り出す、メイクセラビー(化粧療法)という療法も、医療や介護の現場で注目されています。
人との関りを増やす
家に閉じこもりきりで他の人との交流がほとんどない高齢者は、生活で刺激が得られないために意欲が低下しやすくなります。
地域の交流会や認知症カフェ、デイサービスなどに誘い、他の人と関わる機会をできるだけ増やしましょう。
出かける意欲が低下しているために外出を拒否する高齢者や、病気やケガなどで外出が難しい高齢者には、インターネットによるオンライン通話がおすすめです。
インターネットに不慣れな高齢者でも安心して使えるコンシェルジュ付きのタブレット端末「Carebee」などを利用して、自宅から出られない高齢者のコミュニケーション機会をサポートしてあげてください。
参考
高齢者向けコミュニケーションサポートタブレットCarebee(ケアビー)
日課表を作る
自分のやるべきことがわからないと、何をすれば良いかもわからず意欲が低下してしまう高齢者も多いようです。
人間、目標があるとやる気が出ます。高齢者の日々の生活でも小さな目標を設定し、その目標をひとつずつクリアすることで意欲が向上すると考えられます。
目標達成が目に見える形で明らかになると、より大きな達成感が得られます。具体的な目標を日課表にしておくと、高齢者自らが目標達成のために動きやすいでしょう。
東京都健康長寿医療センターが公開した生活習慣チェック表「本日の8ミッション」には、自宅で過ごす高齢者が健康的な生活を送るための行動目標が8つ設定されています。
8つのミッションを毎日クリアすることで、適度な運動・十分な栄養・ストレス解消・健康管理が日々行えるようになりますので、ぜひご活用ください。
まとめ
今回は高齢者の意欲が低下する原因と、意欲低下した高齢者への対応のポイントを解説しました。
高齢者の意欲低下は、本人でもどうしようもない場合もあります。高齢者の気持ちに寄り添って、無理なく気持ちが回復できるような対策をとりましょう。