- 高齢者の食欲不振は健康上のリスクを招く
- 食欲不振の高齢者には低栄養・低血糖・免疫低下などの症状が起きやすい
- 高齢者の食欲不振の原因は基礎代謝や内臓機能の低下、認知症など
- いろいろな改善策を試して高齢者の食欲不振を改善しよう
若い頃には食欲旺盛だった人も高齢になると食欲が減退して、あまりたくさんの食事が食べられなくなります。
しかし食欲不振により十分な栄養素が摂取できないと、高齢者が健康的な生活を送るために必要なエネルギーが確保できません。
高齢者の食欲不振はどのような原因によって起こり、どのような健康上のリスクがあるのでしょうか。
今回は高齢者の食欲不振について解説し、高齢者が食欲を回復させ美味しく食事がとれる改善策を紹介します。
高齢者の食欲不振は健康状態悪化のリスク
高齢者が食欲不振になっても「メタボより良い」と、高齢者自身や家族が楽観視しているケースがよく見受けられます。
しかし高齢者の食欲不振は、肥満している高齢者よりももっと健康状態を悪化させるリスクが高いのです。
国立がん研究センターの研究では、中年期以降の男女はBMIが高すぎる人よりも低すぎる人の方が死亡率が高いという結果が出ています。
画像引用:国立がん研究センター 多目的コホート研究 (JPHC Study) |中年期男女におけるBMIと死亡率との関連(詳細版)
BMIが高すぎる高齢者にももちろん健康上のリスクは存在していますが、食欲不振でBMIの値が下がっている高齢者はさらに大きなリスクがあることを理解しましょう。
高齢者の食欲不振により起こり得る症状
高齢者が食欲不振になると、以下のような症状が発生すると考えられます。
低栄養
低栄養とは、身体を動かすために必要なエネルギーや栄養素が慢性的に不足している状態のことです。
低栄養になると体重の減少や筋力・体力の低下だけでなく、気力の低下も症状として現れます。
低栄養については以下の記事も参考になります。
低血糖
低血糖とは血糖値が正常範囲よりも低い状態となってしまい、手足のしびれや震え、頭痛、意識の混濁などが起こる症状です。
高齢者は若年層よりも身体の感覚がにぶくなるため、低血糖に気づきづらくなるため注意が必要です。
免疫力低下
免疫力を高めるためにはビタミンの摂取がかかせませんが、サプリメントによる接種だけでは免疫力は十分に上がりません。
腸は最大の免疫臓器と言われ、免疫力を高めるためには腸環境を改善して腸を活発に働かせる必要があることが最新の研究によりわかってきています。
食物を口から食べ、腸に充分な働きをさせないと、いくらビタミンだけを摂取しても身体の免疫力は上がりません。
骨粗しょう症
人間の骨は成長期が終了したら変化しないと思われがちですが、実は骨の中身は随時新しいものに作り替えられています。
画像引用:野田市|骨の中身は常に変化している(市報のだ11月15日号掲載)
食欲不振でカルシウムが十分に摂取できないと、骨がもろくなって骨粗しょう症になる可能性が高まります。
ちょっとした転倒でも骨折する可能性があるため、高齢者は特に十分な注意が必要です。
脱水症状
私たちが日々摂取している食事には、想像よりもたくさんの水分が含まれています。
水やお茶で水分補給する以外にも、食事によって補給できる水分が多いのです。
食欲不振により食事が十分にとれなくなると、摂取できる水分量も少なくなり、脱水症状に陥る可能性があります。
高齢者が食欲不振になる原因とは
高齢者が食欲不振になり食事が食べられなくなる原因には、以下のようなものが考えられます。
基礎代謝の低下
高齢になると運動量が減り、筋肉が衰えてきます。
筋肉量の減少は基礎代謝の低下を招くため、身体がエネルギーを欲しなくなり空腹を感じにくくなります。
空腹感がないと食事も美味しく感じられません。そのため基礎代謝が低下した高齢者は食欲不振に陥りやすくなります。
内臓機能の衰え
加齢により、高齢者は胃や腸の内臓機能も衰えます。
食後に消化不良を起こしたり、下痢や便秘などの排せつ障害なども起こしやすくなるため、食事に嫌なイメージがつきまとうようになり、食欲不振につながります。
味覚・嗅覚の変化
若い頃には好きだった食べものが、年を重ねるうちに好きではなくなったという高齢者が大勢います。
その理由は、加齢による味蕾細胞や嗅神経細胞の減少のためです。味覚・嗅覚が高齢になると衰え、これまで美味しいと思っていた食べものが美味しく感じられなくなります。
口腔状態の悪化
入れ歯や差し歯が入っている高齢者は、入れ歯などの具合が悪くなることでも食欲不振に陥りやすくなります。
口内炎や歯周病など高齢者によくある口腔トラブルが食事どきのストレスになり、食べる気が失せてしまうのです。
不規則な生活習慣
不規則な生活習慣は食欲不振の原因にもなります。
寝たきり、あるいは自宅に閉じこもりがちの高齢者は身体を動かす機会が少ないため、夜になってもよく眠れずに睡眠不足になりがちです。
睡眠不足により自律神経が乱れ、その影響により食欲不振に陥ります。
高齢者うつ・ストレス
高齢者うつなど精神の病気により、食欲不振の症状が発生します。
また精神の病気にかかっていなくても、精神的に辛いときには食欲が落ちるのは当然です。高齢者は社会的な孤立や身近な人の死去などストレスにさらされる機会が多いため、食欲不振などの意欲低下を招きやすくなります。
高齢者の意欲低下については以下の記事でも詳しく解説しています。
認知症
高齢者の食欲不振の原因が、認知症になっているからかもしれません。
認知症の症状の中には、食べ物を食べものとして認識できない「失認」や、食事の仕方を忘れる「失行」などの症状があります。
人間が生きる上で基本となる「食事」に関わる脳機能を失ってしまうことで、食事をとる必要性や食事の楽しみさえもなくなってしまっているかもしれないのです。
なお、失認や失行などの症状が起きない認知症もあります。認知症の種類については以下の記事で詳しく説明しています。
高齢者の食欲不振を改善するには
食欲不振に陥った高齢者に対し、家族など周囲の人はどうやって高齢者に食べてもらえば良いのでしょうか。
以下からは高齢者の食欲不振を少しでも改善する方法を紹介します。
食事のレシピ・見た目を工夫する
味覚や嗅覚の変化、あるいは内臓機能の低下などで食事を義務だと感じている高齢者には、食事がまず楽しいものだと思い出して頂く必要があります。
多くの量は食べられなくても、いろいろな食材を少しずつ小鉢に盛り付けるなど盛り付け方法やレシピを工夫して、高齢者に「美味しそうだ」と思ってもらえるような食事作りをしましょう。
高齢者向けの食事作りについては以下の記事が参考になります。
ソフト食やミキサー食など、介護食を必要とする高齢者の食事作りについては以下をご覧ください。
楽しい雰囲気で食事する
楽しい食事にするためには、雰囲気づくりも重要です。
誰とも話さずにひとりで食事する「孤食」ではなく、家族はできるだけ食事を一緒にとって楽しい雰囲気で食事できるようにしましょう。
ひとり暮らしの高齢者は地域や介護サービス施設の集まりに積極的に参加して、複数人での食事の機会を増やすことをおすすめします。
運動を習慣づける
運動をしてお腹がすくと、食べ物も美味しく食べられます。
また、運動により身体が疲労して夜にぐっすり眠れるようになると、自律神経の乱れが改善できるなどの効果も期待できます。
以下の記事でご紹介しているような高齢者向け体操を、日々行う習慣をつけてください。
口腔ケアをする
口から食べる食事は、口の中が健康でなければ美味しくは食べられません。
特に寝たきりの要介護者は、歯みがきなどが自分でできないため口腔トラブルが発生しがちです。口腔ケアをしっかり行い、できるだけ長く口から食事ができるようにしましょう。
食欲不振をおぎなうハイカロリー食も活用
上記のようなさまざまな改善策を実施しても、どうしても食欲不振から回復できない可能性もあります。
そのようなときは、市販のハイカロリー食で栄養補給を図ったり、状況に応じて入院して点滴で栄養補給をするなどの措置をとりましょう。
ただし、ハイカロリー食や点滴などで栄養素はおぎなえても、食事による生きる喜びは回復できません。どうしてもというときの緊急措置をとりつつ、引き続き食欲不振が解消できる対策は続けてください。
まとめ
今回は高齢者の食欲不振について解説しました。
食事は身体だけでなく、心の栄養にもなります。できる限り口から食べ物を食べられる生活を長く続けられるよう、食欲不振の原因をひとつひとつ排除していきましょう。