- 法定相続人の基本は「配偶者+血族の中で順位が高い人」
- 「子(孫)」「親(祖父母)」「兄弟姉妹(甥姪)」の順番で相続人が決まる
- 代襲相続や相続放棄などイレギュラーな状況により相続順位は変動する
- 遺言書があれば順位によらず相続先を決められる(遺留分の考慮が必要)
民法では相続発生時に「誰が優先して遺産をもらうか」の順位を定めています。
正しい相続順位を理解しておかなければ、自分の大切な財産が誰の手元に渡るのか判断できません。
これから相続対策をしようとする方は、自分が望む相手にきちんと財産が渡せるように、今のうちから相続順位のルールをしっかり理解しておきましょう。
今回は相続順位の基本的なルールと、順位が変動するイレギュラーなケースについて解説します。
相続順位の基本ルール
被相続人(亡くなった方)の相続先は、その方が結婚しているときには必ず配偶者が相続人になります。
第890条(配偶者の相続権)
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。引用:e-Gov法令検索|民法
つまり相続が発生した際には、配偶者と被相続人の血族の誰かが法定相続分にのっとって分けることが基本的なルールです。
上記の基本ルールは、残された配偶者のその後の生活を保護する目的により設けられています。
また配偶者に対しては、2019年の相続法改正により税制面でもさまざまな優遇措置が取られるようになりました。
相続法改正でどのような配偶者への優遇措置が誕生したのかは、以下の記事でご確認ください。
法定相続人の優先順位
では配偶者以外の血族の中からは、どの方が優先して遺産をもらえるのでしょうか。
第1順位から第3順位まで順番に見ていきましょう。
第1順位:子・孫
配偶者以外で優先順位がもっとも高いのは、亡くなった方(被相続人)の直系卑属である子どもです。
第1位順位に認められている法定相続分:相続財産の2分の1
子どもが2人以上いるときには、その全員が法定相続分を均等に割り当てます。
実子だけでなく養子にも同じ権利が得られますが、まだ生まれていない胎児は相続人にはなることができません。
子どもがすでに亡くなっているときには孫が代襲相続します。代襲相続については後ほど詳しくご説明します。
第2順位:親・祖父母
被相続人に子や孫がいないときには、相続順位は2番目にスライドします。
第2順位の対象者は直系尊属である親です。親が亡くなっているときには、さらに上の直系尊属の祖父母が第2順位となります。
第2位順位に認められている法定相続分:相続財産の3分の1
直系尊属の場合も直系卑属の考え方と同じく、対象者が複数名存在する場合には全員が均等に相続します。また実親のみならず養子縁組した養親も対象に含まれます。
第3順位:兄弟姉妹・甥・姪
順位が3番目となるのは被相続人の兄弟姉妹です。
第3位順位に認められている法定相続分:相続財産の4分の1
兄弟姉妹が2人以上いるときの考え方や、兄弟姉妹がすでに亡くなっているときの代襲相続については、第1順位・第2順位と同様です。
相続順位の調べ方
上記の順位を正確に調べるときには、被相続人が生まれてから死亡時までの連続した戸籍謄本を取り寄せて確認します。
配偶者と子どもだけ、または親だけなど簡単な家族関係だと思っていても、実際には認知した子どもの存在や異父母の兄弟姉妹がいる可能性も考えられます。
不動産や預金の名義変更をする際にも相続順位を第三者に証明する必要がありますので、必ず正確な相続順位を調べておきましょう。
遺言書は法定相続よりも優先される
ここまで説明した相続順位の基本的なルールは、相続人が遺言書を残していないことが前提です。
被相続人が遺言書を残していたとしたら、遺言書の内容が法定相続よりも優先されます。
配偶者にすべての財産を渡したい、または子どものうちの誰かに多く財産を譲りたいなどの希望がある方は、その意思を遺言書に書き記しておきましょう。
また、遺言書を書くべき理由はそれ以外にもあります。以下の記事で詳しく説明していますので併せてご覧ください。
法定相続人には遺留分請求の権利がある
では遺言書を書けば確実に希望どおりになるかと言えば、必ずしもそうとは限りません。
配偶者と上記の順位に基づき相続人になった方に対しては遺留分侵害額請求権が認められています。遺留分とは法定相続人が最低限の財産をもらえる権利のことです。
特定の人物への集中的な相続や遺贈により遺留分が侵害された方は、相続財産を受け取った方に対して取り分を請求できます。
遺留分侵害額請求権について詳しくは以下の記事をご参照ください。
相続順位に影響をおよぼす特殊ケース
家庭にはいろいろな事情がありますので、上記のように単純には相続順位が決まらないケースも存在します。
ここからは、相続順位が変わったり、順位が変わらなくても相続に影響をおよぼすイレギュラーなケースをひとつひとつ確認しましょう。
代襲相続
第1順位の子が被相続人よりも先に亡くなっている場合には、その子どもである被相続人の孫が子の代わりに相続します。これを代襲相続と呼びます。
不幸にして孫も亡くなっているときにはひ孫が相続します。
第3順位となる兄弟姉妹でも代襲相続はできますが、第3順位で認められている代襲相続は甥・姪までです。
内縁・事実婚のパートナー
相続先の基本である配偶者は戸籍上の配偶者のみに限られますので、婚姻届を出していない内縁の夫婦や事実婚のパートナーは相続人にはなれません。
かつて結婚していた離婚後の元配偶者も同様です。
ただし元配偶者やパートナーとの間に子どもが生まれていれば、その子は第1順位の相続人になれます。
相続放棄
相続人に指定された人が相続放棄の手続きをすると、相続の権利は次の順位、または同列順位の人にスライドします。
先ほどご説明した代襲相続についても、相続放棄をした方の子や孫は行うことができません。これは相続放棄した時点で、その方は初めから相続人ではなかったものとして扱われるからです。
相続放棄について詳しくは以下の記事も参考にしてください。
生前贈与による特別受益
生前贈与は相続順位の変動には関係ないものの、実際にもらえる財産の額に影響を与える可能性があります。
被相続人の生前に金銭的な援助を受けていた方は、その援助相当額が特別受益として計算され、相続の取り分から差し引かれます。これを特別受益の持ち戻しと呼びます。
相続順位の高い方が生前贈与を受けているときには、遺言書で特定受益の持ち戻しの免除を指示しておいてもらうなど、何らかの対策が必要です。
特別受益については以下の記事も参考にしてください。
行方不明の相続人
相続人の中に行方不明者がいたとしても、上記の生前贈与のケースと同じく相続順位に変動はありません。
ただし行方不明の相続人の存在は、順位が変わらないことこそが重大な問題です。
遺産分割協議は相続人全員の合意がないと成立しません。そのため行方不明者がいると相続手続きが行えず、被相続人の財産を動かすこともできなくなります。
何としてでも行方不明者を探し出すか不在者財産管理人を立てる、もしくは失踪宣告を申し立て次の相続順位にスライドするなどの対策をしなければいけません。
行方不明の相続人がいるときには早急に弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
今回は相続順位のルールについて解説しました。
大切な遺産が誰の手に渡る予定なのかを把握しておくことは、亡くなった方にとっても残された家族にとっても重要です。
自分の財産の相続予定者をきちんと確認し、順位によらず財産を譲りたい相手がいる場合には遺言書などの事前対策を行いましょう。