- 認知症とは病名ではなく認知機能が低下した状態を指す言葉
- 認知症の英名は「Dementia(ディメンシャ)」
- 認知症にはいろいろな種類がある
- 高齢になると誰でも認知症になる可能性がある
- 万が一認知症になったときに備えてやるべきことがある
いまの日本で「認知症」という言葉を聞いたことがない方はほとんどいないと言ってもよいでしょう。
いまや認知症高齢者の増加は、日本だけでなく諸外国でも大きな社会問題になっています。
しかし、実際にはどれだけの方が認知症について本当のことを理解しているでしょうか。認知症について「いろいろなことを忘れていく怖い病気」だと思っている方が大勢いらっしゃいます。
認知症は怖い病気でもなければ、ただ単に物事を忘れてしまう現象ではありません。
今回は認知症とは何かをわかりやすく簡単に解説します。私たちの生活にも影響が生じる可能性がある認知症について、正しく理解しておきましょう。
そもそも認知症とは何か
まずは、そもそも認知症とは何なのかについて多くの方が勘違いしている場合があります。
認知症とは、ある1つの「病気」を指す言葉ではありません。脳の病気や障害などの理由により認知機能が低下して、日常生活に支障が出た「状態」を指す言葉です。
認知機能とは人間が現状を認識したり、学習や記憶するなどの知的機能を総称した概念です。
画像引用:東京都健康長寿医療センター研究所|超高齢期の認知機能~百歳までと百歳から
多くの場合では認知機能の低下はゆっくりと進行しますので、ある日突然に「認知症になる」ことはありません。
英語で認知症は「Dementia」
認知症は英語で「Dementia」と言います。読み方は「ディメンシャ」です。
その他の言語で認知症を指す言葉は以下のとおりです。
フランス語 | Demence |
ドイツ語 | Demenz |
イタリア語 | Demenza |
ロシア語 | слабоумие |
中国語(簡体) | 失智 |
韓国語 | 치매 |
もともと認知症は「痴呆症」と呼ばれていた
かつて認知症は「痴呆症(ちほうしょう)」と呼ばれていました。
しかし痴呆という言葉には侮蔑的な意味合いがあり、今でいう認知症の症状を的確にとらえていないとの問題点が指摘されていました。
そのため2004年(平成16年)に厚生労働省が主体となって新しい名称が検討され、同年12月からは一般的な用語や行政用語として「認知症」が用いられるようになっています。
なお「認知症」以外に候補として挙がっていた名称は「認知障害」「もの忘れ症」「記憶症」「記憶障害」「アルツハイマー(症)」の5つです。
認知症の種類とは
人が認知症になる原因は、およそ70種類もあると言われています。
その中でも発症人数が多い認知症は以下の4種類です。
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 脳血管性認知症
- 前頭側頭型認知症(ピック病)
認知症の種類によって原因や症状は異なります。
以下からは上記の認知症4種類について簡単に説明します。それぞれの認知症にどんな違いがあるのか確認しましょう。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症とは、脳内に溜まったアミロイドβやタウタンパクが脳の神経細胞を壊し、脳を委縮させる病気です。
なぜ脳内にアミロイドβやタウタンパクが溜まるのかは、まだ解明されていません。
アルツハイマー型認知症になると認知機能が低下し、記憶障害や見当識障害、実行機能障害などが生じます。多くの方が認知症と聞いてイメージするような「家族の顔を忘れる」や「自分がどこにいるかわからない」などの症状が代表的です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症とは、脳内にレビー小体という特殊なタンパク質が溜まる病気です。なぜ脳内にレビー小体が溜まるのかは解明されていません。
レビー小体型認知症になると手足のふるえや筋萎縮など、難病指定されているパーキンソン病と同じような症状が起こります。そのためレビー小体型認知症はかつてパーキンソン病とよく誤診されていました。
レビー小体型認知症の場合には、パーキンソン症状に加え幻視や睡眠時の異常行動なども発生します。
脳血管性認知症
脳血管性認知症とは、脳の病気によって発症する認知症です。
上記のアルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症とともに三大認知症のひとつですが、脳血管性認知症は原因が解明されている唯一の認知症です。
脳血管性認知症は脳梗塞や脳出血などの病気により、脳の神経細胞がダメージを負うために発症します。
原因疾患である脳の病気を治療すれば脳血管性認知症の進行は止まりますが、一度ダメージを受けた脳細胞は回復しないため、認知機能を完全に復活させる治療法はありません。
脳血管性認知症の症状は、脳の神経細胞が損傷した箇所により異なります。言語をつかさどる神経細胞が損傷したときには言語障害が起こり、運動をつかさどる神経細胞が損傷したときには麻痺や歩行障害などの症状が起こります。
前頭側頭型認知症(ピック病)
前頭側頭型認知症とは、脳内に異常タンパク質が溜まるために起こる認知症です。
発症原因となる異常タンパク質は何のタンパク質が変化しているのか、なぜ脳内に溜まるかは解明されていません。
前頭側頭型認知症のおよそ8割の方には、脳内でPick球が確認できます。そのため前頭側頭型認知症は別名ピック病とも呼ばれています。
前頭側頭型認知症の場合には上記の三大認知症のような「もの忘れ」などの症状はほとんど見られません。自制心の低下による反社会的行動や、感情の抑制が効かなくなるため怒りっぽくなるなどの症状が起きる点が特徴です。
また、前頭側頭型認知症は40代の初老期に発症するケースが多い点も特徴的です。
日本における認知症の割合
東京都健康長寿医療センター研究所の統計によれば、2013年時点で65歳以上の高齢者のうち約16%は認知症になっていたそうです。
さらに、85歳以上になると男性の35%、女性の44%が認知症になっています。95歳を過ぎた方では男性の半数以上、女性の8割以上が認知症です。
画像引用:東京都健康長寿医療センター研究所|認知症と共に暮らせる社会をつくる
認知症は誰でもなる可能性がある
上記の統計からもわかるとおり、認知症は年齢が上がるにつれ発症の可能性が増します。
また、日本には現在超高齢化が進んでいます。2025年には日本の人口のうち約3割が65歳以上の高齢者となり、2060年にはその割合が約4割になると言われています。
つまり、この先はますます日本における認知症高齢者の割合が増えるということです。具体的に2025年には高齢者の5人に1人が認知症になり、国民の17人に1人は認知症になると予測されています。
誰もが認知症になる可能性があるため、認知症は他人事では済まされない時代になっています。
認知症になる前の予防が大切
脳の病気を原因とする脳血管性認知症を除き、認知症の詳しい原因はまだわかっていません。
そのため認知症を完全に予防することはできませんが、認知症の予兆が見られた時点で適切な対策を打てば発症をある程度遅らせたり、進行を遅くできることがわかってきています。
認知症になる前の、正常とも認知症ともつかない状態を軽度認知障害(MCI)といいます。
MCIは有酸素運動や認知トレーニングの実施により改善が期待できますので、認知症を予防したい方はMCIのうちから適切な治療と対策をとり、できる限りの認知症予防をしていくことをおすすめします。
認知症になる前にやっておくこととは
上記でもご説明したように、いまや認知症は誰もがなる可能性があります。
ここからは、自分自身や家族が認知症になる前にやっておくべきことについて説明します。家族で話し合い、家族の誰かが認知症になったとしても安心できる環境を今から整えておきましょう。
認知症サポーターになる
認知症サポーターとは、認知症の方が安心して生活できるよう支えていく立場の方です。自治体や企業・団体が開催する講習を受講することにより誰でも認知症サポーターになれます。
認知症サポーター講習では認知症に関する知識や、認知症の方を支えるためにできることを教えてもらえるため、家族が認知症になったときに適切な対処が可能になります。
介護費用の検討をする
家族が認知症になった場合、身近な家族が介護したり、介護施設の費用を負担したりすることになります。
認知症の家族を介護するための費用がどのくらいかかるかを考え、その費用をどこから捻出するかを話し合っておきましょう。
一般的に介護費用がどのくらいかかるかについては、以下の記事も参考にしてください。
相続について話し合う
認知症になると相続などの重要な決定が行えなくなります。
認知症になってから遺言書を書いても法的に無効となってしまう可能性がありますので、相続について指定がある場合には認知症になる前に遺言書を書いておく必要があります。
認知症と相続の関係については以下の記事もあわせてご覧ください。
まとめ
今回は認知症について解説しました。
ある日突然、身近な家族が認知症になるかもしれません。また家族ではなく、自分自身が認知機能の衰えを自覚する日が来る可能性もあります。
自分や家族が認知症になるかもしれないとの不安や恐れは、認知症について理解しておけば、ある程度やわらぎます。
認知症とは何なのかをきちんと知り、今から認知症になる前の対策を開始しましょう。