- 高齢者の食事では誤嚥に注意する必要がある
- 加齢により喉仏付近の筋肉が落ち嚥下障害で誤嚥になりやすい
- 誤嚥性肺炎は誤嚥によるトラブルの中でも最も重大なリスク
- 誤嚥防止に有効なアプローチは3つ(食事・筋トレ・口腔ケア)
老後になると毎日の食事にも注意する必要があります。中でも特に注意しなければいけないのが「誤嚥」です。
「高齢者は誤嚥が怖い」とはよく言われますが、若い人や中高年層が“むせ”る誤嚥と、高齢者の誤嚥とは何が違うのでしょうか。
また高齢者の誤嚥を防止するためにはどのような対策が有効なのでしょうか。
今回は、高齢者の誤嚥が危険な理由と防止策について解説します。
誤嚥とは
誤嚥とは食べ物や飲み物、唾液などが食道ではなく気管に入ってしまう現象です。
いわゆる“むせ”た状態も誤嚥が理由の場合が多く、高齢者でなくても誤嚥自体は決して珍しい現象ではありません。
しかし若い人や中高年層の誤嚥は何かのはずみや勢い良く食べた・飲んだなどが主な理由なのに対して、高齢者の誤嚥は以下の嚥下障害が主な理由になっている点が異なります。
嚥下障害とは
嚥下障害とは筋肉の衰えによって唾液や食物・水分が飲み下しづらくなる状態のことを指します。
また水や固形物を飲み込むときに気道が閉じず、本来は食道に入るべき飲食物や唾液が気管に入ってしまいます。これが嚥下障害による誤嚥です。
嚥下障害により高齢者には以下の危険が考えられます。
- 食事中にむせる
- あまり食べられず低栄養になる
- 飲料を控えるため脱水症状に陥りやすい
- 窒息の危険がある
- 誤嚥性肺炎を発症する
中でも末尾の誤嚥性肺炎は、後期高齢者にとって一番注意すべきリスクです。
後期高齢者は誤嚥性肺炎の危険が
老後になると誤嚥が怖いと言われる理由は、75歳以上の後期高齢者は誤嚥によって誤嚥性肺炎を引き起こす可能性が高いからです。
誤嚥性肺炎とは気管に入った細菌が肺で繁殖し炎症を起こす病気です。多くの高齢者は加齢や持病により細菌感染への抵抗力が低下しているため、誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。
画像引用:日医工株式会社|知識 誤嚥性肺炎とは
今の日本では肺炎で亡くなる人のおよそ96.5%が高齢者で、そのほとんどは誤嚥性肺炎によるものだと言われています。
誤嚥性肺炎は2000年以降急激に増加
東京都健康安全研究センターの調査によれば、誤嚥性肺炎による死亡者は1979年の男子264人、女子159人に対して2016年には男子21,730人、女子16,920人といずれも100倍近くまで増加しています。
特に2000年以降に急激な増加を見せており、超高齢化により誤嚥性肺炎の危険性が高まっていることが伺えます。
画像引用:東京都健康安全研究センター|人口動態統計からみた日本における肺炎による死亡について(肺炎,インフルエンザ,誤嚥性肺炎,年次推移,世代マップ,人口動態統計)
誤嚥性肺炎を防止するには
誤嚥性肺炎を防止するためには、以下3つの観点からのアプローチが可能です。
- そもそも誤嚥させない → 食事の工夫
- 気道を閉じて異物を混入させない → 筋力アップ
- 肺で細菌を繁殖させない → 口腔ケア
以下からは、3つそれぞれの具体的な防止策について説明します。
自宅でできる誤嚥防止対策①食事の工夫
生命維持に欠かせない栄養補給と水分補給が誤嚥の原因にならないように、毎日の食事や水分摂取の方法も工夫しましょう。
老後になると噛む力だけでなく飲み込む力も弱くなりますので、それをサポートできるような食事の形状や方法を選ぶのがポイントです。
とろみ付け
食べ物や飲み物にとろみを付けると、飲んだ固形物や水分が気管に入りづらくなり誤嚥防止に役立ちます。
とろみ自体は片栗粉などでも付けることは可能ですが、温度が冷たくても溶けやすい専用のとろみ剤を使用すると簡単にとろみ飲料・とろみ食が作成できます。
介護用とろみ剤は以下のような商品があります。初めてとろみ剤を使用する際には使いやすい分包タイプがおすすめです。
また服薬時の誤嚥防止策としては、以下のような味付きゼリー状オブラートの利用もおすすめです。
龍角散 服薬ゼリー らくらく服薬ゼリー (1)チアパック 1袋【×20セット】
とろみをつけてくれる自販機もあります。とろみ機能付自動販売機の動画もご覧ください。
[sc name=”pcrkit”]
姿勢を前かがみにする
食事時の姿勢によって誤嚥のリスクを下げることもできます。
誤飲しやすい高齢者が食事するときの姿勢は、お行儀よく背筋を伸ばした姿よりも、以下の図のように前かがみでの食事が「正しい姿勢」です。
画像引用:嚥下(えんげ)障害と誤嚥(ごえん)性肺炎|総合南東北病院
要介護状態となりベッドの上で食事する人も、クッション等を活用して前かがみの状態で食事できるよう工夫してください。
自宅でできる誤嚥防止対策②筋力アップ
高齢者になると喉頭挙上筋群(こうとうきょじょうきんぐん)と呼ばれる喉仏付近の筋肉が衰え、食べ物の摂取時に気管が閉じづらくなります。
喉仏の筋肉を鍛えることで喉頭挙上筋群の機能向上が期待できます。
嚥下体操
嚥下体操は肩から首、口周りまでの筋肉を活発にするためのトレーニング法です。
喉仏を動かす筋肉だけでなく関連部位を総合的にトレーニングできます。
《嚥下体操のやり方》
- 口をすぼめて深呼吸する
- 首を回し肩を上下させる
- 両手を頭上で組み、上半身を大きく左右に倒す
- 頬を大きく膨らませてはすぼめる何回か繰り返す
- 舌を前後に出し入れし、舌で左右の口角を交互にタッチする
- 強く息を吸い込み「パ」「タ」「カ」と 5 回発音する
- 最後に①と同様口をすぼめて深呼吸する
画像引用:大阪府歯科医師会|高齢者のための新しい口腔保険指導ガイドブック
トレーニング便利グッズ
口周りの筋肉を増加させるトレーニンググッズにはいろいろな種類があり、いわゆる小顔アップ効果が期待できるグッズも誤嚥防止トレーニンググッズとして使うことができます。
高齢者向けのトレーニンググッズとしては、昔なつかしい吹上げパイプのおもちゃをモチーフにした健康グッズなどを使っても良いでしょう。
筋力アップ手段に遊びを取り入れることにより、意識せず楽しみながらトレーニングが実行できます。
自宅でできる誤嚥防止対策③口腔ケア
食事ごとに歯みがき・うがい・フロスケアなどの口腔ケアをしっかり行うことで、誤嚥をしても肺に細菌が入り込むリスクを軽減できます。
口腔内には適度な湿度と温度があるため細菌が繁殖しやすい場所となります。適切な口腔ケアは誤嚥性肺炎だけでなく虫歯や歯周病を防止するためにも重要です。
口腔ケア便利グッズ
生活範囲がほぼベッド内のみの要介護者の場合、毎日の歯みがきの際にも誤嚥に気をつける必要があります。
以下の口腔ケア用品は歯ブラシと吸引チューブが一体化しており、ベッドサイドの吸引機に接続することで歯みがき時の余分な水分・汚れが吸引できます。要介護者の口腔ケアに大変役立ちます。
まとめ
今回は高齢者が注意すべき「誤嚥」について解説しました。
誤嚥は窒息や誤嚥性肺炎などを引き起こす可能性があり、高齢者の生死にも関わります。
とはいえ誤嚥を恐れるだけでは、楽しい筈の食事が単なる栄養補給になってしまい、高齢者の生きる喜びをも奪ってしまう可能性があります。
適切な誤嚥防止策を取りながら、安全な食事を楽しめるような工夫をこらしましょう。