- 高齢者が買い物に困る理由は5つある
- 日本では約25%の高齢者が買い物難民化している
- 高齢者の買い物を手助けするサービスがある
- 高齢者が買い物に出かけられるよう自治体や企業も努力している
高齢になると、掃除や洗濯などの日常的な家事もやりづらくなってきます。
中でも支障をきたす可能性がある家事は買い物です。若い方にとっては何でもない行動である買い物も、高齢者にとっては難しくなってくる場合があります。
その理由は、単に加齢で身体が動かしづらくなっただけとは限りません。日本の高齢者をとりまくさまざまな環境変化により、高齢者が買い物難民化している事実があります。
今回は高齢者の買い物事情と、買い物難民化している高齢者を支援する方法について解説します。
高齢者の買い物が大変な理由
どうして買い物は、掃除や洗濯などの他の家事と比べて高齢者にとって特に大変になるのでしょうか。
高齢者の買い物が大変になる理由には、以下5つの理由が考えられます。
- 足腰が弱る
- キャッシュレス決済の普及
- 近隣から店がなくなった
- 免許を返納した
- 移動時の事故・犯罪に遭う可能性
1.足腰が弱る
加齢により多くの高齢者は足腰の筋力が衰え、長距離を歩きづらくなります。
歩行スピードもゆっくりになるため、若い頃には5~6分で歩けた500mほどの距離も、高齢になると10分以上かかる可能性があります。スーパーやコンビニなどが自宅から500m以上の距離にある場合には、毎日の買い物も難しくなってくるでしょう。
また高齢者の外出には転倒のリスクもあります。路上における転倒事故だけでなく、特に雨天における店舗内や商業施設内の高齢者の転倒事故が多数発生しているため、消費者庁でも注意を呼びかけています。
参考
店舗・商業施設で買い物中の転倒事故に注意しましょう消費者庁
2.キャッシュレス決済の普及
新型コロナウィルス感染症の流行をきっかけに、買い物の支払をスマートフォンなどで行うキャッシュレス決済が大変普及しました。
キャッシュレス決済は便利ですが、スマートフォンの扱いに不慣れな高齢者、またはそもそもスマートフォンを所持していない高齢者にとっては、キャッシュレス決済はハードルの高い決済方法です。
レジで支払いがもたつき、後ろに並んでいる方から文句を言われるのが怖いとの考えから、買い物に消極的になってしまう高齢者も存在します。
3.近隣から店がなくなった
大型スーパーの出店により、個人で経営していた精肉店・鮮魚店などの食料品販売店の数が大きく減少しています。
近隣で買い物ができなくなった住民は遠方まで買い物に出かけなければならず、大きな痛手です。
しかし大型スーパーも採算が合わないと撤退してしまう可能性があり、そうなると地域住民は買い物する場所を失い、買い物難民化してしまいます。
このような問題が発生している地域は、地方だけとは限りません。近年では都市部エリアにも同様の問題が発生しています。
4.免許を返納した
近隣に食料品や日用品を売る店がなくなると、遠方の店舗まで出向く必要があります。
しかし公共交通機関が発達していない地域だと、バスや電車の乗り場が自宅の近くにないため自動車を使わざるを得ないかもしれません。
近年では高齢者の運転による痛ましい事故が大きな社会問題になっており、運転免許証を自主返納すべきとの声が高まっています。
交通事故は絶対に避けなければいけませんが、運転免許証を返納すると自分で自動車が運転できなくなり、日用品の買い物にも支障をきたすため多くの高齢者が返納をためらっています。
運転免許証の返納については以下の記事を参考にしてください。
5.移動時の事故・犯罪に遭う可能性
自宅近くにスーパーなどがあり、歩いて行ける場合でも注意が必要です。
交通事故総合分析センターの調査によれば、歩行時の高齢者の交通事故は自宅から500m圏内で多発しています。
特に事故発生が集中している時間帯となる17時~19時台は、ちょうど夕飯の買い物などに出かけることが多い時間帯です。実際にも同時間帯で起きた交通事故の被害者となった高齢者が出歩いていた理由は、買い物と訪問がほぼ半数を占めています。
画像引用:交通事故総合分析センター|ITARDA INFORMATION交通事故分析レポート「特集・高齢歩行者の道路横断中の事故」
弱者として扱われることが多い高齢者はひったくりなどの犯罪にあうリスクも考えられ、高齢者単独での買い物には多くの危険がはらんでいます。
約25%の高齢者が買い物難民化している
上記などの理由により、日常の買い物ができなくなっている高齢者は大勢いらっしゃいます。
なんと日本では、4人に1人もの高齢者が買い物難民化しているとのデータがあります。
2018年に農林水産省が取りまとめた推計によると、2015年における食料品アクセス困難人口は全国で約825万人との結果が出ました。
《食料品アクセス困難人口とは》
食料品を販売する店舗まで直線距離で500m以上の位置に居住し、かつ自動車が利用できない65歳以上の高齢者。
同年の高齢者人口は約3,558万人だったため、約25%(農林水産省の推計では24.6%)が食料品アクセス困難者、つまり買い物難民になっていると推測されます。
画像引用:農林水産政策研究所|食料品アクセス困難人口の推計結果の公表及び推計結果説明会の開催について
日本の高齢者数が増えるとともに、高齢者の買い物難民の数も増加しています。2005年時点では約678万人だった買い物難民が、2010年には約733万人、そして2015年には約825万人です。
おそらく2023年現在ではさらに高齢者の買い物難民が増えていると推測され、高齢者の買い物手段を確保するための対策は待ったなしの状態です。
高齢者の買い物を手助けするサービス
なかなか思うように買い物にもいけない高齢者は、いったいどのようにして食品や日用品などの生活必需品を入手すれば良いのでしょうか。
以下からは、高齢者が自宅から出なくても日用品等が入手できるサービスを紹介します。
ネットスーパー
ネットスーパーは自宅のパソコンやスマートフォンからインターネットで注文して、最寄りのスーパー実店舗から自宅まで商品を配達してくれるサービスです。
ほとんどのネットスーパーは当日配達が可能で、早いネットスーパー(OniGO)であれば最短10分で届けてくれます。
欲しいものがすぐに手に入れられるため、近所のスーパーで買い物をするときとほぼ変わらないスピード感が魅力です。
またネットスーパーであれば、遠距離介護をしている家族が注文して、高齢者世帯に配送してもらうこともできます。
遠距離介護については以下の記事も参考にしてください。
宅食サービス
宅食サービスとは、調理済の弁当や総菜を定期的に自宅へ届けてくれるサービスです。
買い物だけでなく調理も不要ですので、料理が苦手な高齢男性の単身世帯などにおすすめできます。
宅食サービスの利用には、他にもいろいろなメリットがあります。詳しくは以下の記事をご覧ください。
ホームヘルパーに依頼
介護保険の介護サービスを使って、ホームヘルパー(訪問介護員)に買い物の代行を依頼する方法もあります。
また、ホームヘルパーは買い物以外にも洗濯や掃除、食事作りなどが依頼できます。
ホームヘルパーを利用するためには、介護保険で要介護1以上の認定を受けた上でケアプラン(介護計画書)を作成する必要があります。
ケアプランとは何か、ケアプランを作成するにはどうしたら良いかを知りたい人は、以下の記事を参考にしてください。
買い物の機会が減ると生きがい喪失の恐れも
上記のサービスを利用すれば、高齢者が買い物に出かけなくても生活必需品は入手できます。
ですが、それでは高齢者を自宅に押し込めてしまうことになり、本当の解決にはなりません。
買い物は高齢者にとって、貴重な外出の機会です。歩くことや、他の人との会話は高齢者の健康的な生活を維持するために重要になります。
買い物すらせずに毎日自宅に閉じこもりきりの生活では、生きがいすら喪失してしまうでしょう。
自治体や企業が買い物難民の高齢者を応援
高齢者が安心して買い物に出かけられる環境を整えるために、各自治体も努力しています。
一部の自治体では高齢者の買い物ツアーを定期的に実施したり、地域の商店に出店してもらい青空市場を開催するなどの取り組みを行っています。
また公共交通機関が通らない過疎地の高齢住民に対して、自治体がタクシー券を配布しているケースもあります。
ですが、上記のような取り組みをまだ行えていない自治体も存在するため、すべての高齢者の買い物支援をするためには企業やNPO法人などの協力も必要です。
多くの企業やNPO法人が、自治体と連携して高齢者が買い物難民にならなくてすむよう、さまざまな支援を行っています。
経済産業省がまとめた「買物弱者応援マニュアル」でも、各支援の事例やポイントが紹介されています。本記事とあわせて参考にしてください。
まとめ
今回は日本の高齢者が買い物に苦労している理由と、それを解決するための対策について解説しました。
高齢者の買い物難民化は、日本全国に見られる大きな社会問題です。
高齢者が自力で買い物できる、自立した生活を長く続けられるよう、社会全体でできる対策を模索していきましょう。