- 外国人が遺言書を作成するときの法律は日本・本国いずれでもOK
- 外国人の遺言を実行するときは本国の法律に従う(一部例外あり)
- 外国語で遺言書が書けるかどうかは遺言形式により変わる
- 外国人が作る遺言書は公正証書遺言がおすすめ
- 国際相続はトラブルが発生しやすいので専門家に相談した方が良い
日本に住んでいる在留外国人の数は、2021年6月末時点で282万3,565名いらっしゃいます(出入国在留管理庁調べ)
昨今のコロナ禍により割合は減少しているものの、それでも多くの外国人が日本に住んでいる事実には変わりません。
外国人が日本に居住しているときには本国の法律と日本の法律の両方が関係してきますが、日本に住む外国人が家族や知り合いに遺言で財産を残したいと考えたとしたらどちらの法律が関係するのでしょうか。
今回は外国人が日本にいながら遺言で財産相続の指示をする方法と、逆に日本人が外国人に財産を相続させたいときに考えておくべきことを解説します
外国人でも日本で遺言書が作れる
そもそも外国人は、日本に住みながら正式な遺言書が作成できるのでしょうか。
結論から申し上げると、外国人が日本国内で有効な遺言書を作ること自体は可能です。
ただし実際に遺言書を作成するにあたっては、法律上の問題や言語の問題など、さまざまな点をクリアする必要があります。
以下で、外国人の遺言書作成ではどのような点について考える必要があるのかをひとつずつ確認していきましょう。
外国人の遺言における法律の決まり
外国人が日本で遺言書を作成するときの法律の決まりは「作成するとき」と「実行するとき」で異なります。
作成するときは日本・本国どちらの法律も可
日本における国際相続では、遺言書を書く方式については以下条項の1~5に適合すれば有効性が認められます。
第2条(準拠法)
遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関し有効とする。
1 行為地法
2 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
3 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
4 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
5 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法
つまり日本国内に居住していた外国人であれば、国籍を有していた本国の法律でも、住所地だった日本の法律でも、どちらの法律にのっとって作成しても構いません。
しかし、遺言した人が亡くなった後、遺言を実行するときには「どちらでも」とはいかなくなります。
実行するときは準拠法により本国法律に従う
準拠法とは、国際的な取引や契約の際に、判断基準として選択される法律のことです。
相続も契約の一種ですから、2国間の相続の際には準拠法が適用されます。相続においては遺言者の本国の法律が選択され、本国の法律にのっとった遺言実行を行わなければいけないと定められています。
第37条(遺言)
遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。
外国人が日本で作成した遺言書がいくら法的に有効なものであっても、実行に際してその内容が本国の法律に不適格であれば、遺言書どおりに相続を実行することはできません。
一部日本の法律が適用されるケースもある
原則として相続では遺言者の国籍がある国の法律にのっとって実行されますが、それぞれの国の決まりにより、一部日本の法律が適用されるケースがあります。
例えばアメリカの州法では、不動産の相続は所在地を管轄する法律が適用されるとの決まりがあります。
遺言した人がアメリカ人で、日本国内に不動産を所有していたときには「不動産の相続は日本の法律」「不動産以外の相続はアメリカ州法」と、2つの法律に分けて実行されます。
遺言書で使用する言語
日本語以外の言語を日常的に使用している外国人は、遺言書を日本語で書けない可能性があります。
外国語で遺言書が書けるかどうかは、遺言書の形式により異なります。
自筆証書遺言 | 日本語以外も可 |
公正証書遺言 | 日本語のみ円 |
秘密証書遺言 | 日本語以外も可 |
外国人の遺言書の作り方
日本国内で法的に認められる遺言書の作り方は、外国人でも日本人でも作成方法は同じです。
自筆証書遺言の作り方については以下の記事でわかりやすく説明していますので、今回の記事とあわせて参考にしてください。
外国人におすすめの遺言形式
上記でご説明したとおり、遺言形式には以下3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
以下からは3種の遺言形式のうち、外国人におすすめの形式を説明します。
公正証書遺言がおすすめ
公正証書遺言とは、公証役場で公証人が遺言者に代わり作成する遺言書です。
3種類の遺言形式の中では、この公正証書遺言がもっとも外国人の遺言形式としておすすめです。後述する自筆証書遺言・秘密証書遺言では遺言者が亡くなった後に家庭裁判所での検認が必要となり、海外で暮らしている相続人がいたときには来日しなければいけませんが、公正証書遺言であれば検認が不要です。
ただし公正証書遺言は日本語でしか作成できないため、日本語が話せない外国人は通訳を頼む必要があります。
全国の公証役場の所在地は以下リンクより確認できます。
自筆証書遺言は法務局の保管がおすすめ
自筆証書遺言は遺言者が自筆して作成する遺言書です。
自筆証書遺言を書く言語の制限はないために外国語でも作成でき、印鑑を所有しない外国人であれば捺印の代わりにサインを用いても構いません。
そのため公正証書遺言よりも手軽に作成でき、費用が安価な点はメリットとなりますが、家庭裁判所での検認が必要な点はデメリットです。
このデメリットを排除するためには、自筆証書遺言を作成した外国人はあらかじめ法務局に遺言書を預けておくことをおすすめします。
法務局で保管された自筆証書遺言は家庭裁判所での検認が不要になるため、海外在住の相続人がいても遺言書の確認がスムーズに行えます。
自筆証書遺言を法務局に預ける方法については以下の記事を参考にしてください。
秘密証書遺言はおすすめできない
秘密証書遺言とは遺言者が遺言を自筆し、その存在を誰にも明かさずに秘密にしておく方式の遺言書です。
この方式は、外国人が遺言書を作成する方法としてはおすすめできません。自筆証書遺言と同じく家庭裁判所での検認が必要だとの理由もありますが、それ以外にも秘密証書遺言にはいろいろなデメリットが考えられるからです。
秘密証書遺言については以下の記事で詳しく解説しています。
遺言で外国人に相続させたい時には
外国人と国際結婚をして、配偶者である外国人に財産を相続させたいと考えている日本人もいらっしゃるでしょう。
遺言する人が日本人の場合には、相続人が例え外国人であっても日本の法律にのっとって相続が実行されます。
しかし、相続人が外国人の場合には、日本人に相続させるよりもさらに慎重な対応が求められます。外国人の中には日本語の読み書きが得意ではない方もいるため、かたくるしい日本語で書かれた遺言書の理解が難しい可能性があるからです。
また相続人が外国人のときには、相続関係を証明する戸籍謄本などが無い場合も考えられ、日本人相手の相続に比べて困難が予想されます。
日本人が外国人に遺言書で相続を指定するときには、遺言書の作成時にあらかじめ遺言書を翻訳しておく、言葉が通じる連絡人を決めておく、遺言の適切な執行人を設定しておくなど、さまざまな対策が必要です。
国際相続に長けた専門家への相談がベスト
日本人以外の人物がからむ相続を国際相続(または渉外相続)と呼びます。
上記でご説明したように、国際相続は外国人が被相続人(財産をあげる人)であれ相続人(財産をもらう人)であれ、日本人同士の相続よりも大変です。
さらに、いざ相続トラブルが発生したときにも相手国の法律や慣習が複雑に関係し、解決までに時間がかかることが予想されます。
相続に外国人が関係する場合には国際相続に長けた弁護士などの専門家にあらかじめ相談し、起こりうるトラブルの可能性を未然に摘んでおいた方が良いでしょ。
まとめ
今回は外国人が日本で遺言書を作成するときに知っておきたいことを解説しました。
日本のグローバル化により、これからの相続では外国人が日本国内で被相続人もしくは相続人になるケースが珍しくはなくなる未来が予想されます。
日本に住んでいる日本人としても、別国籍の外国人が相続に関係するときにはどのようなことが考えられるか知っておきましょう。