- エンディングノートには法的効力はない
- 例えエンディングノートに法的効力がなくても無意味ではない
- 死後の希望で法的効力があるのは遺言書
- エンディングノートと遺言書の併用がおすすめ
エンディングノートには自分の介護・終末期の医療に関する希望や、葬儀方法・埋葬方法など、いろいろな希望を書き記すことができます。
また自分が持っている預貯金等の財産情報を記し、死後には誰に財産を譲り渡したいかについても記載が可能です。
しかし、エンディングノートに書いただけではすべてが実行されるとは限りません。
今回はエンディングノートの法的効力、エンディングノートと遺言書との違いについて詳しく解説します。
エンディングノートに法的効力はない
まず結論から申し上げれば、エンディングノートには法的効力はありません。
エンディングノートを読んだ家族等の第三者が記載された内容を実行するかどうかは、閲覧者の自由意思にまかされています。
閲覧者に対する法的な強制力はない点は、エンディングノートを作成する人は必ず念頭に入れておきましょう。
なぜエンディングノートに法的効力がないのか
なぜエンディングノートに法的効力が存在しないのか、それには以下2つの理由があります。
民法で認められていないから
民法では遺言の方式を以下のように限定しています。
(遺言の方式)
第九百六十条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
エンディングノートは民法上の「法律に定める方式」ではないため、エンディングノートは法律上の遺言にはなりません。
現在の法律で認められない項目があるから
リビングウィル(終末期の医療選択)をエンディングノートに書き、自分が尊厳死や安楽死を希望していても、日本では尊厳死や安楽死が認められていません。
現代の日本では、そもそも法律に抵触する内容はエンディングノートに書いても実現不可となります。
参考
Advance directive と living will一般社団法人日本老年医学会
エンディングノートのメリット
わざわざエンディングノートを書いても法的効力がないのなら、エンディングノートを作ることは無意味なのでしょうか。
そんなことはありません。エンディングノートの作成には以下のようなメリットがあります。
終末期医療の決定に関与できる
自分自身で医療選択ができなくなった場合に備えて、どこまで延命措置を受けたいか事前に指示しておく文書をリビングウィルと言います。
病気やケガで植物状態に陥るなど回復の見込みがないときでも、医療の取り止めや撤退するのは家族にとって非常に苦しい決断です。
法的効力はないものの、リビングウィルで本人の意思を明確にしておくのは残される家族のためにも有意義な手段です。
なお、エンディングノート内できちんとリビングウィルについて明記しておきたい人は、日本尊厳死協会の監修「リビングウィルノート」を選ぶのもおすすめです。
家庭裁判所の検認がいらない
自筆証書遺言は故人が亡くなった後でも、家族がすぐに開封して中身を確認することはできません。
法定相続人の全員が揃っている状態で、家庭裁判所の検認を行った上で開封する必要があります。
それに対してエンディングノートは故人が亡くなった直後、もしくは生前中でもいつでも閲覧が可能です。スピード感で言えば遺言書よりもエンディングノートの方が圧倒的に有利となります。
相続に影響ない形見分けを指示できる
故人の形見となるべき品物が必ずしも相続対象になるとは限りません。
国税庁では明確な基準値を定めていませんが、一般的には5万円以下の品物は相続財産に含めなくても問題ないとされています。
自分が大切にしていた趣味のグッズ、またはアクセサリーや着物などを形見分けとして誰かへ譲り渡したいときには、あらかじめエンディングノートに書いておくとスムーズに譲渡しやすくなるでしょう。
遺族の心のなぐさめになる
エンディングノートには相続指示だけでなく他にもいろいろな内容を書くことができ、その中のひとつに「家族への感謝の言葉」があります。
亡くなったのが突然であれ長患いの末であれ、家族の死は残された遺族にとって大きな悲しみとなります。
エンディングノートに家族へのメッセージを記載することで、それを読んだ遺族の心のなぐさめにもなり、安らいだ気持ちで故人を偲べるようにもなります。
エンディングノートと遺言書の違い
エンディングノートに法的効力がないとしたら、死後の希望はどのようにして伝えれば良いのでしょうか。
遺言書を作成すれば、故人の希望に法的効力を持たせることは可能です。
相続時には遺留分など法定相続人に認められている権利が関係するため、遺言書の内容すべてが必ずしも実行されるとは限りませんが、作成すればエンディングノートよりも実現の可能性が格段に高くなります。
ただし叶えたい希望は相続指示や認知などに限定されるため、エンディングノートに書く内容のすべてに法的効力を持たせることはできません。
エンディングノートと遺言書の違い一覧
エンディングノートと遺言書の主な違いは以下表のとおりです。
違い | エンディングノート | 遺言書 |
法的効力 | ない | ある |
種類 | 自由形式 | ・自筆証書遺言 ・公正証書遺言 ・秘密証書遺言 |
書き方の決まり | 規定はない | 民法による規定がある |
作成できる人 | 誰でも書ける | 満15歳以上で判断能力を有する人 |
デジタル作成 | すべて可能 | 一部の添付資料のみ可能 |
生前に関する事項 | 記述できる | 記述できない |
エンディングノートと遺言書の併用がおすすめ
上記説明のとおり、遺言書には法律上の細かい決まりがあり、また遺言書によって法的効力を持たせられる事項は限定されています。
ですから法的効力のある遺言書と、法的効力はなくてもいろいろな内容が書けるエンディングノートとを併用することがもっともおすすめの方法です。
「エンディングノートだけ」または「遺言書だけ」の、どちらを選んでも片手落ちとなってしまう可能性があります。
自分の希望を叶える確立をより一層高めるためには、是非エンディングノートと遺言書の2つを作成しましょう。
エンディングノートに書く内容
遺言書は自分が亡くなってからのことしか書けませんが、エンディングノートには生前に関する内容も書くことができます。
自分の状況に合わせ、必要な事項から少しずつ書き進めていきましょう。
エンディングノートに何を書くべきかについては、以下の記事でも作成者の年齢や家庭状況ごとに推奨される項目をご紹介しているので参考にしてください。
遺言書に書く内容
遺言書により法的効力が持たせられる事項を法定遺言事項と呼びます。
主な法定遺言事項は以下のとおりです。自分が以下に該当する希望を持っているときには必ず遺言書に残しておきましょう。
- 相続人の廃除または取り消し
- 相続分の指定
- 遺産分割方法の指定
- 特別受益持戻しの免除
- 未成年後見人・監督人の指定
- 遺言執行者の指定
- 生命保険受取人の指定
- 祭祀主宰者の指定
- 遺贈
- 認知
まとめ
今回はエンディングノートに法的効力があるのかどうかについて解説しました。
エンディングノートには法的効力はありませんが、自分の老後や終末期、死後の希望を家族等に伝えるためには良い手段です。
自分の意向を誰かにきちんと伝えておかなければ、その考えは本人以外に誰にもわかりません。
エンディングノートにしっかりと自分の考えを書き記し、法的効力のある遺言書も併用して、いざというときに備えておきましょう。