- 遠距離介護とは1998年に作られた造語で「遠く離れて暮らす親を介護すること」
- 遠距離介護を選ぶ理由は親・子それぞれにある
- 遠距離介護を成功させるにはメリット・デメリットを踏まえた工夫と知恵が必要
就職や結婚により故郷を離れた方も、いつか自分の親に介護が必要になる日が来るかもしれません。
遠く離れて暮らしている親を介護する方法として、子供は2つの選択ができます。
実家に戻って親の介護をするか、さもなければ遠距離介護をするかです。
今回は遠距離介護について解説し、遠距離介護を成功させるための知恵とコツを伝授します。
遠距離介護とは
遠距離介護とは、要介護状態になった高齢者の子供などが離れた場所で生活しながら要介護者の日常生活をサポートすることです。
1998年に出版された「もうすぐあなたも遠距離介護―離れて暮らす親のケア(著:NPO法人パオッコ 理事長 太田 差惠子)」 で初めて使われた造語で、書籍の流通により世の中に広まりました。
遠距離介護では要介護者と介護者が遠く離れた場所にいるため、直接食事の支度をしたり入浴や排泄などの介助は行えません。
その代わり遠距離介護をする方は介護のキーパーソンとしての役割を担い、介護サービスの手配や親世帯の金銭面の管理など、遠方でも可能な親の自立支援を行います。
遠距離介護の割合
厚生労働省が毎年実施している国民生活基礎調査によれば、高齢者介護をしている介護者の割合は最新2019年度の調査時点で13.6%でした。
同居の子および子の配偶者が介護している割合は合計28.2%ですので、介護をしている子供のおよそ3分の1程度が遠距離介護をしている事実がわかります。
なお2013年度の同調査では遠距離介護の割合は9.6%、2016年度の調査では12.2%でした。
遠距離介護の割合は年を追うごとに増加しています。
遠距離介護を選択する理由
遠距離介護を選択した方たちは、なぜそのように決断したのでしょうか。
遠距離介護が発生する理由には、親側の理由と、子供側の理由それぞれが考えられます。
親側の理由
要介護状態になったとしても、親としては長年住み慣れた家や地域を離れたくはありません。
慣れ親しんだコミュニティを離れ、知り合いがほとんどいない見知らぬ土地に移り住む不安は大きいでしょう。
突然の環境変化により体調を崩したり認知症が進行するなど、介護のための転居がかえってマイナスになるリスクもあります。
子供側の理由
独立して長い年月が経つ頃には、子供の方も自分たちの生活拠点をしっかり確立しています。
仕事でも責任ある立場を任されている方は、親の介護が必要だからといって簡単には退職もできません。また子供の学校をどうするかなど、自分以外にも考えなければいけない事情があります。
遠距離介護のメリット・デメリット
遠距離介護を選択した親と子には、それぞれ以下のようなメリットとデメリットが生まれます。
遠距離介護のメリット
「遠距離介護が発生する理由」でも説明したとおり、遠距離介護では介護する側とされる側のどちらの生活環境も変えなくて良いという点が一番のメリットとなります。
それと同時に、親世帯が独立しているために以下のメリットも発生します。
- 世帯分離により納税額が低くなる可能性がある
- 高齢者世帯向けの行政サービスが受けやすい
- 特養入所の優先度が上がる
またお互いが離れて暮らしているため、介護者に精神的な余裕が生まれて要介護者にも優しくなれるとのメリットも考えられます。
遠距離介護のデメリット
遠距離介護の際に想定されるデメリットは以下の通りです。
- 緊急時にすぐ駆けつけられない
- 体調や気分のささいな変化に気づきにくい
- 帰省や電話連絡の頻度が上がり、交通費や電話代などの費用がかかる
また、親の入院などトラブルの発生時には遠距離介護中といえども帰省の必要があり、中長期的に仕事を休まざるを得ない可能性もあります。
成功する遠距離介護の知恵とコツ
上記のようなメリットとデメリットとを踏まえ、遠距離介護を成功させるためにはどのような点に気をつければ良いのでしょうか。
以下からは、遠距離介護を選択する方が知っておきたい知恵とコツをいくつかご紹介します。
介護資金の見通しを立てておく
原則として、介護サービス利用料金を含む親世帯の生活資金は、親自身のお金でまかなうようにしましょう。上記でも説明したように遠距離介護では予想外の費用がかかりがちですので、子世帯のお金を取り崩していけば、いつか共倒れになってしまいます。
いざ介護が必要になってからではなく、できれば親が元気なうちに介護費用について話し合っておくことをおすすめします。
親の介護にはどのくらいの費用が想定されるかについては、以下の記事が参考になります。
介護保険や行政サービスをフル活用する
遠距離介護で自分自身が直接介護に携われないときには、介護サービスの利用は必須です。
介護保険でどのようなサービスが利用できるか、ケアマネ頼りではなく自分自身でも積極的に情報収集しましょう。
また親が暮らす地域によっては、独自の介護サービスを提供している自治体もあります。自治体のホームページで調べるか、市区町村役場の担当窓口に問い合わせるなどして、受けられるサービスを積極的に活用しましょう。
親が生活しやすい環境を整える
親が自宅での生活をできるだけ長く続けるためには、高齢の親だけでも生活しやすい環境を整える必要があります。
自宅をバリアフリーに改装するなどして、高齢者が安全かつ快適に移動できる住環境にすれば、遠距離介護中でも安心です。
介護や介護予防のための住宅リフォームには介護保険が適用できます。詳しくは以下の記事を参考にしてください。
職場に相談する
遠距離介護だから普段は親元に行く必要がないと思っていても、いつどんなトラブルが発生するかは誰にもわかりません。
突然に仕事を休んで帰省しなければいけない事態が発生するかもしれませんので、あらかじめ職場の上司や同僚に遠距離介護を行っている旨を話しておきましょう。
介護のために仕事を休まざるを得ない方は、育児・介護休業法により介護休業が利用できます。介護休業の取得や介護休業給付金の受給には事業主の承認や届け出が必要ですので、事前に相談しておいた方がいざというときにスムーズです。
割引制度を調べる
実家が遠方で飛行機に乗らないと帰省できない方にとっては、親の様子を見に帰省する費用も馬鹿になりません。
日本の一部航空会社では、介護を目的に飛行機に乗る方には介護帰省割引が適用されます。適用には条件がありますので、以下の記事で確認してください。
2022年2月現在、JRなどの鉄道会社では介護割引制度は設けられていませんが、それぞれの鉄道会社の割引制度を調べ、よりお得に帰省できる手段を見つけましょう。
また電話代を節約するためには、スマホの通話し放題プランに申し込んだり、LINEやSkypeなどの無料通話アプリの利用もおすすめです。
周囲の方に協力をあおぐ
親の様子が日常的に確認できない遠距離介護では、自分の代わりに親の様子見を行ってくれる存在はできるだけ多く確保すべきです。
担当ケアマネジャーや主治医だけでなく、近所の方や地域のボランティア団体など、親が普段交流している方には帰省時に挨拶するなどコミュニケーションをとっておきましょう。
中でも居宅介護で一番頼りになる存在は、担当のケアマネジャーです。ケアマネジャーの良し悪しによって遠距離介護のやりやすさは大きく左右されますから、以下の記事を参考に相性の良いケアマネジャーを見つけてください。
見守り機器・サービスを導入する
遠距離介護で一番怖いのは、親が倒れたなどの緊急事態に早急な対応が難しいことです。
見守りロボットやセンサー付カメラなど、遠距離でも親の様子がわかるICT機器を導入すれば、緊急事態発生時にも迅速な対応ができるためおすすめです。
また高齢者向け宅食サービスの中には、お弁当の配達とともに安否確認を行ってくれるサービスもあります。デジタル・アナログ両方の手段を使って、いざというときに備えましょう。
在宅生活が難しくなったら施設入所も検討
今回は親が自宅で生活するときの遠距離介護について解説してきましたが、遠距離介護は親が実家近くの介護施設に入所している場合でも当てはまります。
遠距離介護をはじめたばかりの頃は在宅での生活が可能な親でも、その後に親だけでの生活が限界に近づく可能性があります。
在宅での遠距離介護が難しくなったと感じたら、無理せずに施設への入所も検討しましょう。できれば親の介護度が上がる前に入所先の介護施設の目星をつけ、資料請求や見学などを行っておくことをおすすめします。
高齢者向け住宅や長期入居介護施設の種類については以下の記事を参考にしてください。
まとめ
今回は遠距離介護について解説しました。
介護を成功させるコツは「1人で抱え込まない」ことだと言われています。それは同居あるいは近居で介護している方であっても、遠距離介護している方であっても同様です。
周囲の助けを借りながら、親も自分自身も満足できる介護の道をさぐりましょう。