- 厚生年金は1ヶ月の加入でも受け取りが可能
- 「加給年金」「振替加算」等の仕組みで支給額が増加する
- 「在職老齢年金」が適用されると支給額が減少する
みなさんは厚生年金がいくら支給されるのか、ご存知でしょうか?
加入月数に応じて決まった金額が支給される老齢基礎年金とは違い、厚生年金は報酬金額や家族構成等の条件で支給額が変わってしまいます。
今回は、厚生年金の仕組みと、加算・減算の計算方法を紹介します。
厚生年金とは
厚生年金は、会社員等の被保険者が加齢によって勤務することが難しくなったり、病気や怪我等で勤務に制限が生じてしまったり、亡くなったことによって遺族の生活が厳しくなってしまったりした場合に受給することができる年金です。
国民年金・国民年金基金との違い
国民年金
国民年金とは、国民全員が受給することができる年金であり、基礎年金とも呼ばれています。
公的年金を建物に例えた際に国民年金は1階部分に相当し、厚生年金は上乗せの2階部分に相当します。
国民年金基金
国民年金基金とは、国民年金だけにしか加入していない自営業者等の第1号被保険者の老後の所得を保障する制度です。
公的年金の2階部分として、国民年金基金が第1号被保険者のための制度なのに対して、厚生年金は第2号被保険者のための制度です。
すでに2階部分の公的年金が上乗せされている公務員や会社員等の第2号被保険者が国民年金基金に加入することはできません。
厚生年金の種類
会社員・公務員等が加入する厚生年金には3種類あります。
1.(老齢)厚生年金
厚生年金保険に加入していた方が受給することができる年金です。
2.障害厚生年金
病気や怪我で勤務することができなくなった、または勤務に制限が生じてしまった際に厚生年金保険に加入していた当時に初診日があった場合に受給することができる年金です。
3.遺族厚生年金
厚生年金保険に加入していた方が亡くなった際、その亡くなられた方によって生計が維持されていた遺族が受給することができる年金です。
厚生年金の加入条件
厚生年金は事業所単位で適用され、厚生年金が適用されている事業所に勤める従業員や一部条件に該当するアルバイト・パートは加入する義務があります。
適用事業所の種類
適用事業所は大きく「強制適用事業所」と「任意適用事業所」の2種類に分けることができます。
1.強制適用事業所
強制適用事業所に勤める従業員は厚生年金保険に加入する義務が生じます。
- 法人
- 5人以上の従業員がいる個人事業者
- 一定の条件を備えた船舶
2.任意適用事業所
上記の強制適用事業所に該当しなかった場合でも、次の要件を満たし、認可を受けた場合は任意適用事業所になることができます。
- 厚生年金の適用事業所となることに対して、従業員の半数以上が同意していること
- 事業主が申請し、厚生労働大臣の認可を受けること
認可を受けた場合は、同意しなかった従業員も含め全ての従業員に対して、厚生年金に加入する義務が生じます。
厚生年金の保険料計算方法
保険料
被保険者が全額を支払う国民年金と違い、厚生年金は給与からの天引きという形で事業主と被保険者が折半して納めます。
保険料率は18.3%ですが、折半されるため個人の負担割合は9.15%です。
保険料額の計算例)
報酬月額30万円の場合
30万円×9.15%=2万7450円
標準報酬月額とは
「報酬月額」とは、通勤手当や残業手当等の各種手当を加え、税金や各種保険料を引く前の総支給額を指します。
「標準報酬月額」とは、この「報酬月額」を1等級から32等級に分類し、その等級に該当する金額を指します。
上記計算例の場合、報酬月額30万円は19等級(29万円以上31万円未満)に該当します。
【令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和3年度版)】に報酬月額に対応する標準報酬月額がまとめられています。
受給開始年齢
受給期間
受給開始年齢は国民年金と同じく原則65歳ですが、1ヶ月単位で最大で5年繰り上げ、もしくは繰り下げることができます。
つまり、60歳から70歳までの間で受給年齢を繰り上げ・繰り下げることが可能です。
ただし、繰り上げる場合は1ヶ月につき0.5%の減額になる点に注意が必要です。一方、繰り下げの場合は0.7%の増額になります。
また、繰り上げる場合は厚生年金単体ではできず、老齢基礎年金と同時に繰り上げする必要があります。一方、繰り下げの場合は国民年金とは別々に手続きすることが可能です。
受給手続き方法
老齢厚生年金は、国民全員が加入する国民年金に上乗せされる年金のことです。自営業者や専業主婦(夫)は加入せず、会社員や公務員等の「第2号被保険者」が加入します。
受給要件
厚生年金の受け取り要件は、以下の2つです。
- 老齢基礎年金の受給要件を満たしていること
- 厚生年金の被保険者期間が1ヶ月以上あること
厚生年金はあくまで基礎年金の上乗せであるため、基礎年金の受給要件をクリアしていないと受給ができません。
一方、基礎年金の要件が満たされていれば、被保険者であった期間が1ヶ月であっても支給されるのが厚生年金の特徴です。
手続きの方法
受給開始年齢の3ヶ月前に年金請求書とリーフレットが送られてきます。
年金請求書に必要な事項を記入して、添付書類と一緒に年金事務所に提出します。
一部の添付書類はマイナンバーの記載によって省略が可能です。
書類の提出先は年金事務所ごとに管轄区域が定められており、日本年金機構の都道府県ごとの年金事務所管轄区域一覧から確認できます。
手続きの流れ
- 受給者が受給開始年齢になる誕生日の3ヶ月前に日本年金機構から「年金請求書」と「リーフレット」が送られてきます。
- 必要書類を記入します。
- 必要書類を市区町村の年金事務所窓口に提出します。
- 審査後、「年金証書」と「年金決定通知書」が送られてきます。
- [4]の1〜2ヶ月後から振り込みが始まります。
必要な書類
- 年金請求書
- 受け取り先金融機関の通帳等(本人名義)(コピー可能)
上記のほかに、年金の請求に必要な添付書類は、配偶者の有無や保険の加入期間、その他条件等によって違いが生じます。
※「住民票」と「所得証明書」はマイナンバーを記載することで省略が可能です。
年金請求書を提出する全ての方に必要な書類
年金を受給する方の生年月日を明らかにできる以下の書類いずれか1通が必要です。
- 戸籍の抄本(戸籍の一部事項証明書)
- 戸籍の謄本(戸籍の全部事項証明書)
- 住民票※
- 住民票の記載事項証明書※
配偶者がいる方に必要な書類
配偶者とご本人の身分関係を明らかにできる書類が必要です。
- 世帯全員の住民票※
下記書類いずれか1通
- ご本人の戸籍の抄本(戸籍の一部証明書)
- 戸籍の謄本(戸籍の全部事項証明書)
下記書類いずれか1通の写し
- 配偶者の年金手帳
- 配偶者の基礎年金番号通知書
- 配偶者の厚生年金被保険者証
子ども(18歳到達年度の3月31日まで)がいる方に必要な書類
子どもとご本人の身分関係を明らかにできる書類が必要です。
- 世帯全員の住民票※
下記書類のいずれか1通
- 子どもとご本人それぞれの戸籍の抄本(戸籍の一部事項証明書)
- ご本人の戸籍の謄本(戸籍の全部事項証明書)
同一生計配偶者(子ども)の年収が850万円(所得655.5万円)未満である方に必要な書類
配偶者(子ども)の収入が確認できる下記書類のいずれか1通が必要です。
- 所得証明書※
- 課税(非課税)証明書
- 源泉徴収書
同一生計の配偶者(子)の年収がおおむね5年以内に850万円(所得655.5万円)になる方に必要な書類
配偶者(子ども)の収入が、ご本人の年金の受給権が発生したときから、概ね5年以内に850万円未満となることを証明できる書類が必要です。
- 退職年齢を明らかにできる勤務先の就業規則の写し
下記書類いずれか1通
- 所得証明書※
- 課税(非課税)証明書
- 源泉徴収票
障害の状態にある子どもがいる場合に必要な書類
- 診断書
- レントゲンフィルム(障害が次の傷病に該当する場合)
- 呼吸器系結核
- 肺化膿症
- けい肺(これに類似するじん肺症を含む)
- その他認定または審査に際して必要と認められる書類
雇用保険者被保険者番号を記入した方に必要な書類
- 雇用保険被保険者証の写し
次の条件に該当する場合、別途添付書類が必要です。
雇用保険法に基づく求職を申し込んでいる方
- 雇用保険者受給資格症の写し
高年齢雇用継続基本給付金及び高年齢再就職給付金を受給中の方
- 高年齢雇用継続給付支給決定通知書の写し
年金からの所得控除(基礎控除を含む)を希望する方に必要な書類
- 扶養親族等申告書の記入・押印
過去に退職一時金を受けたことがある方に必要な書類
- 退職一時金変換にかかる記入・押印
受給権の時効は「5年」
厚生年金の支給は5年が時効です。5年経過後に請求しても、5年分までの年金しか受給できません。
年金受給額が加算される仕組み
加入月数が同じであれば全く同じ金額が支給される国民年金(老齢基礎年金)と違い、老齢厚生年金は加入者の収入や家族の状況によって支給される金額が変わります。
ここでは特に大きく金額が上乗せされる加給年金のほか、加給年金特別加算、振替加算について解説します。
加給年金
加給年金は、65歳以上の世帯主が一定の要件を満たした妻や子がいる場合に、老齢厚生年金に上乗せして支給される年金のことです。
【加給年金の受給要件】
- 受給者の厚生年金の加入期間が20年以上ある
- 厚生年金被保険者に生計を維持されている65歳未満の妻がいる場合
- 厚生年金被保険者に生計を維持されている18歳未満(1・2級の障害がある子は20歳未満)の子がいる場合
配偶者がいる場合の加給年金額は224,500円です。また、子の加算額は第1子・第2子が224,500円、第3子以降は74,800円と子供の人数によっても変わります。
加給年金特別加算
通常、老齢厚生年金は世代が若くなるほど年金額が減少していきます。受給開始年齢もかつての60歳から65歳になり、年を経るごとに受給額は引き下げられ、受給開始年齢が引き上げられています。
その一方で、家族手当に当たる加給年金に関しては若くなるほど手厚くなるように制度が整備されました。これが加給年金特別加算です。
例えば特別加算の一種である配偶者特別加算は、受給権者本人の誕生日が昭和9年(1934年)4月2日以降であれば支給されます。配偶者特別加算は受給権者の年齢が若いほど金額が上がり、昭和18年(1943年)以降の生まれなら年額165,600円が加入年金にプラスされます。
【加給年金特別加算の額】
- 昭和9年4月2日~15年4月1日生まれ:33,200円
- 昭和15年4月2日~16年4月1日生まれ:66,400円
- 昭和16年4月2日~17年4月1日生まれ:99,600円
- 昭和17年4月2日~18年4月1日生まれ:132,700円
- 昭和18年4月2日生まれ以降:166,600円
振替加算
加給年金は、配偶者が65歳になって老齢基礎年金を受給できるようになると受給権利を喪失してしまいます。その損失を埋める制度が振替加算です。
【振替加算の受給要件】
- 昭和41年4月1日以前に生まれた人
- 配偶者の老齢厚生年金の加入期間が20年未満であること
- 加給年金の対象の配偶者が65歳になって老齢基礎年金の受給権を得ること
昭和41年4月2日以降に生まれた人が対象外であることに注意が必要です。
なお、支給金額は厚生労働省のHP「加給年金と振替加算」で確認できます。世代が若くなるほど支給額が低くなり、昭和41年4月2日以降に生まれた人は0円になります。
「特別支給の老齢厚生年金」とは
特別支給の老齢厚生年金とは、一定の要件を満たした人に60歳から年金を支給する仕組みのことです。
支給対象者は男性は1961年4月1日以前に生まれた人、女性は1966年4月1日以前に生まれた人です。
ただし、60歳以降も働いている場合は、在職老齢年金という仕組みによって支給額が減額される可能性があります。
在職老齢年金で減額される可能性がある
もともと老齢厚生年金は退職して収入が減った人のために作られた制度であり、会社を退職することが受給の要件になっていました。しかし、60歳を超えてもバリバリと働いている人もいます。そのような人に向けた制度が在職老齢年金です。
60歳以降も働き続けて収入がある場合、支給される年金額が収入に応じて減額されます。減額の対象は60歳~64歳で支給される特別支給の老齢厚生年金と65歳以降に支給される老齢厚生年金です。
在職老齢年金の支給停止要件
在職老齢年金の支給停止要件の計算では基本月額と総報酬月額相当額が必要になります。
基本月額は老齢厚生年金(年額)を12で割った額、総報酬月額相当額は標準報酬月額と過去1年の標準賞与額を12で割った額の合計額のことです。
在職老齢年金の計算方法は60歳から64歳と65歳以降で大きく異なりますのでご注意下さい。
60歳~64歳の在職老齢年金の支給停止額の計算方法
60歳~64歳の在職老齢年金の支給停止額の計算方法は以下のとおりです。
基本月額(年金月額)と総報酬月額相当額の合計が28万円以下の場合
→全額支給
基本月額(年金月額)と総報酬月額相当額の合計が28万円を超える場合
・総報酬月額相当額が47万円以下で基本月額が28万円以下
→(総報酬月額相当額+基本月額ー28万円)÷2
・総報酬月額相当額が47万円以下で基本月額が28万円超
→総報酬月額相当額÷2
・総報酬月額相当額が47万円超で基本月額が28万円以下
→(47万円+基本月額-28万円)÷2+(総報酬月額相当額-47万円)
・総報酬月額相当額が46万円超で基本月額(年金月額)が28万円超
→(47万円÷2)+(総報酬月額相当額-47万円)
65歳以降の在職老齢年金の計算方法
基本月額(年金月額)+総報酬月額相当額の合計が47万円以下の場合
→全額支給
基本月額(年金月額)+総報酬月額相当額の合計が47万円超
→(総報酬月額相当額+基本月額-47万円)÷2
受給権の時効は「5年」
特別支給の老齢厚生年金も同様に年金の支給は5年が時効です。5年経過後に請求しても、5年分までの年金しか受給できません。
特に特別支給の老齢厚生年金は、存在を知らずに案内を見逃してしまうと受給できなくなります。日本年金機構からの送付物は必ず開けて中身を確認するようにしてください。
まとめ
今回は、厚生年金の仕組みと加算・減算の仕組みについて解説しました。
ねんきん定期便を見れば支給金額は確認できますが、自分で計算することもできます。制度の概要を知っていれば、「他の人より年金が少ない!」と心配することも無くなります。
なお、年金制度は毎年のように改定されるため、最新の情報を確認するようにしてください。