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老後の海外移住で失敗しないために|移住先を決めるポイントと注意点

この記事を書いた人
臼井 貴紀 Usui Kiki

Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んだり、1日訪問看護ステーションに密着するなど、徹底的な現場主義タイプ。日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。 ▼保有資格 終活カウンセラー FP エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座修了

この記事のサマリ
  • 海外移住を成功させるためのポイントは治安、ビザ、生活コスト
  • 人気の移住先はマレーシア、タイ、ハワイ
  • 移住よりリスクが少ない「ロングステイ」も視野に入れる

老後に海外移住を選択する人が増えている一方、中には失敗して帰国してしまう人もいます。リタイヤ後の移住を成功させるためには、国選びのポイントを押さえることが重要です。

今回の記事では、老後の海外移住におすすめの国、海外移住のデメリットと注意点、移住と一緒に検討すべき「ロングステイ」とは何かを紹介していきます。

移住する国を選ぶポイント5つ

①治安が良いこと

老後かどうかにかかわらず、移住する先は治安の良い国を選ぶべきです。

インターネットで各国の治安に対する様々な情報を入手できるほか、外務省の「海外安全ホームページ」を閲覧することで危険度の低いエリアが分かります。

②ビザの取得が容易なこと

ビザ取得の手続き方法は国によってさまざまです。より簡単に海外に移住したいのであれば、「リタイヤメントビザ」が有力な選択肢になります。

年齢制限がある、資産の一部を移住国に持っていくなど一定の条件がありますが、他のビザよりも取得がしやすいでしょう。

③生活コストが安いこと

事実、総務省のデータによる高齢夫妻の可処分所得が月平均で約19万円のところ、消費支出額の月平均は平均は24万円です。毎月5万円ずつ貯金を崩していかないと生活できないことを示しています。

一方、例えばタイであれば月の平均支出は約15万円(1バーツ3.5円で計算)です。同じ年金収入でも、4万円ずつ貯金を増やしながら生活できることになります。

④日本から近いこと

もし日本に友達や家族がいるのであれば、日本から移住先がどのくらいの距離離れているかも重要なポイントになります。
日本と移住先の距離が近れば、飛行機に乗っている時間が短い、時差が少ないといったのメリットがあります。

移住先として人気な国の飛行時間の目安と時差は以下の通りです。

国名飛行時間時差マレーシア6.5〜8時間+1時間

タイ 6〜7.5時間 +2時間
ハワイ 7.5〜10時間 +19時間(※-5時間)

⑤食べ物が美味しいこと

移住後の毎日の食事に関しても選ぶポイントの一つになります。

  • 移住先の食事は自分に合うか
  • どんな食材が日常的に手に入るのか
  • 日本料理のお店はあるか

など、現地の食事については移住前に「ロングステイ」などを利用して確かめておいた方がいいでしょう。

海外移住しても年金は受け取れる

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結論から言うと「海外移住しても年金の受け取りは可能」です。ただし、以下のような注意点があります。

「任意加入」をしないと年金がもらえない場合がある

国民年金は、「20歳から60歳までの間で10年以上」に渡って加入することで受給権を手に入れることができます。条件を満たした場合には、納付した月数に応じて65歳から年金の支給が開始されます。

日本での加入期間が10年未満のまま海外に移住した場合、そのままでは国民年金は受け取れません。国民年金を納付する義務がなくなり、「将来の年金額に反映されない」状態になるからです。

そのため、海外移住者には「任意加入」という制度が用意されています。これで日本在住の時と同じように年金を支払うため、加入期間が10年を超えれば年金の支給対象になります。

iDeCo加入者は掛け金の追加ができなくなる

iDeCo(イデコ)とは、国民年金に上乗せして受け取る「私的年金」のことです。iDeCoはあくまでも「年金の上乗せ」で受け取れるシステムのため、免除を受けたり滞納があったりした場合は利用することができなくなります。

日本にいる間にiDeCoに加入していたとしても、海外に移住した時点で、それ以降の掛け金の拠出ができなくなります。国民年金に任意加入していたとしても同様です。

日本人に人気の移住先3選

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老後の移住先を決める場合は、「日本人に人気の国」から順番に調べていくことをおすすめします。

「一般財団法人ロングステイ財団」のロングステイ希望調査では、2011年から最新の2018年まで、8年連続でマレーシアタイハワイが人気TOP3の地位を獲得しています。

1.マレーシア

マレーシアは、ロングステイ希望調査で2006年から最新版の2018年まで11年連続で1位に輝いた国です。

魅力の1つは、東南アジアの中で圧倒的な親日国だということでしょう。「アジア10か国の親日度調査」において、実に9割を超える人が「大好き」または「好き」と回答しています。

暑すぎない温暖な気候

隣国のタイと比べて平均気温がほぼ同じながら、湿度は年間を通じて低いのが気候の特徴です。そのため、体感温度としてはタイと比べても涼しく感じます。

また、赤道直下のため年間を通じて気温が安定しており、暑季に40℃を記録する一方で12月に一気に気温が下がるタイとは対照的です。

多様な民族の食事を楽しめる

マレーシアでは、マレー民族発祥のマレー料理を食べることができます。また、中華料理とマレー系が融合したニョニャ料理も有名です。

中国系の移民が多いことから中華料理もハイレベルなうえ、日本食のレストランも充実しています。

東南アジアでもっとも治安が良い国の1つ

治安についても良好です。窃盗・置き引きなどの軽犯罪は東南アジアの平均並みに多いものの、強盗や殺人といった凶悪犯罪の数が近隣諸国より少ないです。

経済平和研究所が発表した「世界で最も治安の良い国ランキング2019」では、マレーシアは16位にランキングされており、東南アジアの中でも頭1つ抜けて治安が良いことが分かります。


参考
Global Peace Index 2019(英語)経済平和研究所

2.タイ

マレーシアと並び、長年にわたってロングステイ希望国の2位の位置にいるのがタイです。

タイには多数の日本法人が進出していたり、日本人向けの観光業が発達しているため「仕事が見つかりやすい」のが大きな特徴になっています。

物価が安い

タイの物価は日本の約半分が目安です。例えばタイに住む日本人の多くはコンドミニアム(ジムなどの共用施設があるアパート)に住んでいますが、家賃は東京の半分~1/3程度に抑えることができます。

食費や光熱費の金額においても、日本の約半分と低水準です。

魅力的なリゾートが多い

タイと言えば、「観光地・リゾート地」をイメージする人は多いでしょう。

首都バンコクから1時間半でつける「パタヤ・ビーチ」をはじめ、有名な「サムイ島」「プーケット島」「ピピ島」など、数え出すとキリがありません。

思い立ったらすぐにリゾートに足を延ばせるのは、タイならではの魅力です。

公共交通機関が発達している

タイでは、電車・バス・タクシー以外の交通手段が発達しています。三輪車型の「トゥクトゥク」が代表的ですが、乗り合いピックアップトラックの「ソンテウ」やバイクタクシー、バンコクであれば地下鉄MRTも利用価値が大きいです。

バンコクなどの都市部では交通渋滞が問題化していますが、上手に公共交通を利用すれば快適に生活できます。

3.ハワイ

海外旅行においては特に人気のハワイも、老後の海外移住に選ばれている国の1つです。在留日本人が多く、気候が安定しているため生活がしやすくなっています。

ワイキキビーチやダイヤモンドヘッドなど、美しい景観をいつでも見られるのはハワイならではの魅力です。

日本語が通じやすい

観光地としても人気のハワイですが、現地で生活をする日系人も多いです。ハワイでは人口の約40%がアジア系ですが、その内約17%は日系人が占めています。

日本人が多いため、オアフ島などの主要地では日本語が通じやすくなっています。地方に行くと日本語の通用度は低くなるものの、片言の英語でも意思疎通することは十分に可能です。

気候や食べ物が日本人に合っている

ハワイは年間を通じて温暖な気候が特徴です。日本と比べて湿度も低いため、ジメジメとした暑さを感じることもありません。

また、マクドナルドをはじめ日本でもなじみが深いファストフード店が多く立ち並びます。日本食レストランも充実しており、食べ物が合わなくて困るというリスクは小さいです。

アメリカ本土と同じ先進医療が受けられる

ハワイに住む場合、アジアに比べると医療面の心配はありません。日本と同等以上の水準であるアメリカの医療を受けることができるからです。

ワイキキ等の観光地を中心に緊急医療体制が発達しているほか、日本語を話せる看護師が常駐している医療機関が多いです。

編集部のおすすめ移住先は「マレーシア」

クアラルンプールの風景

「海外でのんびりと過ごしたいけど、どこがするか決まらない」という方には、以下の理由からマレーシアがおすすめです。

    • クーデターやテロなどの政変がない
    • 銃の不法所持に厳罰が設定されている
    • 1年を通じて気候が安定し・湿度も低い

治安に関する不安材料が少なく、気候の安定がもたらす「住みやすさ」を考慮すると、マレーシアはもっともおすすめできる移住先と言えます。

海外移住の注意点

移住とは「日本の資産を全て引き払い、収入の源泉を海外に移すこと」です。つまり、生活の拠点を完全に海外に移すことを指します。

しかし、準備を進めていざ移住をしても、上手く馴染めずに苦労したり、日本に帰ってきてしまう人がいるのも事実です。

ビザの取得には収入の証明が必要

ビザの取得方法は、国によって条件が違います。特に、「一定の資産を移住先に持っていく」「一定以上の収入証明が必要」という点に苦労する人が多いです。

手続きも煩雑なため、ビザの取得そのものを断念する人もいます。その場合はビザなしでいられる期間で日本と海外を行ったり来たりするという選択肢くらいしか残っていません。

日常会話程度の英語力は必要

当然のことながら、海外では日本語の通用度は低いです。コミュニケーションを取るためには、日常会話程度の英語力は必須です。

また、英語が公用語になっている国以外では、都市部を離れると現地語しか通用しないこともあります。現地の住民に受け入れてもらうためにも、「英語+簡単な現地語」を覚えていく努力は必要です。

医療費が高くなる

海外移住すると、日本で国民健康保険料を支払う必要がありません。そのため、毎月の支出は減少します。

ただし、海外には日本のような公的保険がない場合が多いため、病気にかかると医療費を全額支払う必要があります

特にリタイヤ後に移住する場合は、病気や怪我などに備えて、以下のような対策が必要です。

  • 現地で民間の医療保険に加入する
  • 治療の際は日本に戻って医療機関を受診する

文化や価値観が合わないことがある

日本特有の文化や価値観があるように、移住先の国にも同様に存在します。また、日本では当然のことも移住先の国ではそうでないこともたくさんあります。

例えば時間を守らない、自己主張が強いなどの日本には少ない文化が自分にとってストレスに感じることもあります。移住先の文化を心地よく感じる場合もありますが、馴染めないこともあるでしょう。

そのようなことがないように、「ロングステイ」を活用して、自分に移住先の文化や価値観が合っているかを先に確かめることがおすすめです。

リスクを減らすために検討すべき「ロングステイ」という選択肢

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海外移住が海外に生活の軸足を移すものであるため、上手くいかなかった時のリスクが大きいという欠点があります。そこで、最近になって注目を集めているのがロングステイという海外での過ごし方です。

ロングステイとは|移住との違い・定義を解説

ロングステイとは「生活の源泉を日本に置きながら海外の1ヶ所に比較的長く滞在し(2週間以上)、その国の文化や生活に触れ、国際親善に寄与する海外滞在型余暇を総称したものである。」(引用元:一般財団法人ロングステイ財団|ロングステイとは)と定義されています。

日本に生活の基盤を残しておけるため、何かあったら日本に戻るという選択肢があることが特徴です。

ロングステイ財団「ロングステイに関する意識調査」とは

「ロングステイに関する意識調査」とは、一般財団法人ロングステイ財団が毎年行っている海外移住・ロングステイに関する意識調査のことです。

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引用元:一般財団法人ロングステイ財団|ロングステイ・希望地域2018

紹介したマレーシア、タイ、ハワイの3カ国は、2011年から常にTOP3を占めていることが分かります。

人気移住国のビザ取得方法

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海外に移住するにあたっては、ビザの取得が不可欠です。発行できる種類や方法が頻繁に変更されるため、大使館などを通じて最新の情報を得ることが大切になります。

今回は国際結婚や留学ではなく、定年退職した人が発行できるビザにスポットをあてて紹介します。

マレーシア|長期滞在ビザ「MM2H」

MM2Hは「マレーシア・マイ・セカンド・ホーム」の略です。マレーシア政府が推進する長期滞在ビザであり、以下のような特徴があります。

  • 年齢制限なく申請可能
  • 取得すれば10年の滞在が可能
  • 配偶者や21歳未満の未婚の子、60歳以上の両親も同行可能

申請の条件としては、以下について両方の証明が必要になります。

  • 最低35万リンギット(約950万円)の財産証明
  • 月1万リンギット(約27万円)の収入証明

いずれも簡単ではありませんが、収入証明としては現実的です。10年という期間限定のビザですが、延長することで実質的な移住も可能になります。

タイ|リタイヤメントビザ「ノンイミグラントO-A」

タイの永住ビザは配偶者がタイ人であることが条件のため、リタイヤした夫婦がビザ取得を目指す場合は非永住ビザが選択肢になります。

中でも就労を目的としない長期滞在の場合に取得するのは、「ノンイミグラントOーA」です。

取得するには収入面の条件があります。

  • 月65,000バーツ(約23万円)以上の収入証明
  • 銀行預金と年金証書原本で合計800,000バーツ(約280万円)以上の証明

また、英文無犯罪証明書原本、および国公立病院発行英文健康診断書も必要です。なお、書類は発行から3ヶ月以外のものに限り、外務省と公証役場の認証が必要である点に注意が必要になります。

ハワイ|移民多様化ビザプログラム

アメリカの州であるハワイに移住するためには、アメリカの永住権取得が必要になります。永住権取得の中で唯一、抽選で取得できるのが「移民多様化プログラム」です。

以下の条件に該当すれば応募することができます。

  • 米国での12年コースの修了に匹敵する、初等および中等教育の正式なコースの修了
  • 米国労働省の定義により、職業として指定された少なくとも2年の訓練または経験を必要とする職業で、過去5年間に2年の経験(引用元:米国国務省:DVビザ

完全な抽選のため、誰にでも等しく抽選の可能性があります。また、夫婦別々で申し込めば、当選確率が2倍になる点も魅力です。

なお、アメリカの移民法は頻繁に更新されます。ビザの取得を行う場合は、必ず米国移民局在日アメリカ大使館のホームページで最新情報を入手してください

まとめ

今回は、老後に海外移住する際に知っておきたい注意点と、おすすめの移住先にスポットを当てて解説しました。

デメリットや注意点を正しく理解した上で準備を進めれば、夢の海外移住の実現に大きく近づきます。

充実した老後を実現するために、情報収集を進めましょう。