- 60歳以上で再雇用・再就職をすると支給される給付金がある
- 高年齢雇用継続給付金は雇用保険の制度
- 退職時の失業保険受給有無によりもらえる給付金が違う
- 年金が減額される可能性が高いので注意
老後も働くのが当然になってきた2021年の今では、これから会社を定年退職しても再雇用や再就職で働き続けたいと希望している人がほとんどでしょう。
しかし一般的には、再雇用時の賃金は定年前よりも下がると言われています。
老後資金や生活水準をキープするために、下がった賃金を補填してもらえる策はないものでしょうか。
今回は会社を定年退職後した人が再雇用時にもらえる給付金について解説します。
定年後に再雇用された人は給付金がもらえる
会社で雇用保険に加入していた人は再雇用や再就職の際にも、退職前の賃金額との差分の一部を支給してもらえます。
この給付金を「高年齢雇用継続給付金」と言います。
高年齢雇用継続給付金とは
高年齢雇用継続給付金は、厚生労働省が高齢者の雇用促進のために設けている雇用保険の制度です。
60歳以上の高齢者が再雇用や再就職をした際、新しい賃金額が定年前より75%以上低下したときに、再雇用された人に対して給付金が支給されます。
雇用保険への加入が前提となりますので、自営業やフリーランスで働いていた人に対しては支給されません。
雇用保険については以下の記事も参考にしてください。
国がシニアの再雇用を促進するための政策
高年齢雇用継続給付金の制度は、国が企業に対して高齢者雇用を促すために1994年に創設されました。
少子高齢化の急速な進展により、国は高齢者にも就労してもらい、できるだけ労働者人口を確保しようとしています。
参考
今後の高齢者雇用対策について~雇用と年金との接続を目指して~厚生労働省
しかし、国がいくら高齢者雇用を推奨しても、企業側としては現役世代と同じ額の賃金を高齢者にも払うのは困難です。
そこで国が企業の代わりに賃金を給付金と言う形で負担し、企業側に1人でも多くの高齢者を再雇用してもらおうという狙いがあります。
2025年以降は段階的縮小・廃止の見込み
高齢者の再雇用を促進するために始まった高年齢雇用継続給付金ですが、残念ながら2025年以降は段階的に縮小・廃止されることが見込まれています。
国の「働き方改革」により2020年4月からは同一労働同一賃金が適用され、再雇用時において得られる賃金額が変わらなくなる見込みとされているからです。
参考
第137回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会資料厚生労働省
また、2017年(平成29年)の内閣府調査によれば、定年延長や再雇用により希望者全員が65歳以上まで働ける会社の割合は74.1%(113,434社)にまで増えています。
画像引用:内閣府|平成29年版高齢社会白書
多くの企業が65歳以上の高齢者を雇用する体制を整えたため、給付金による高齢者の雇用促進は一定の役割を終えたと考えられています。
高年齢雇用継続給付金の種類
高年齢雇用継続給付金は、定年後に失業保険を受給したか否かによって、以下2種類のどちらかが支給されます。
- 失業保険を受給しなかった人 → 高年齢雇用継続基本給付金
- 失業保険を受給した人 → 高年齢再就職給付金
それぞれの給付金については以下でご説明します。
高年齢雇用継続基本給付金
高年齢雇用継続基本給付金とは60歳で定年退職した後、そのまま同じ会社に再雇用されて働いた人がもらえる給付金です。
また退職した後に他の企業へ転職した人や、ブランク後に同じ会社へ再雇用された人でも、失業期間中に失業保険を受給していなければ対象になります。
高年齢再就職給付金
高年齢再就職給付金とは、60歳以降に会社を退職して雇用保険による失業保険の一部を受け取ってから、再び再雇用や再就職で働き始めた人がもらえる給付金です。
ただし支給には条件があり、再就職先の会社に1年以上雇用されることが確実でないと高年齢再就職給付金をもらうことはできません。
また失業保険を満額受給した後には、高年齢再就職給付金の支給対象外となります。
高年齢雇用継続給付金の計算方法
高年齢雇用継続給付金の計算は以下のように行います。
STEP1:低下率の計算
申請者が60歳になる直前の賃金6ヶ月分を平均化した額と、再雇用・再就職をして支給対象月に支払われた賃金とを比較し、低下率を算出します。
支給対象月の賃金 ÷ 60歳到達時の賃金平均額 = 低下率(%)
STEP2:支給率の計算
低下率を計算した後は、支給対象月の賃金に以下いずれかの料率を当てはめて支給額を算出します。
・低下率が61%以上の人→賃金の15%
・低下率が61.5%以上75%未満の人→以下の早見表を参照
画像引用:厚生労働省|Q&A~高年齢雇用継続給付~
賃金の上限額と下限額
高年齢雇用継続給付金が申請できるのは、再雇用や再就職後の賃金が最低75,000円から最高476,700円(2020年2月現在)の範囲内にいる人だけが対象です。
上下ともに賃金が限度額を超える場合には、たとえ低下率が支給範囲内であっても高年齢雇用継続給付金は申請できません。
この上限額と下限額は、厚生労働省が集計する毎月勤労統計の平均定期給与額を元に、毎年8月1日に改定されます。
高年齢雇用継続給付金の申請方法
高年齢雇用継続給付金の申請は原則として再雇用した会社が行いますが、再雇用された本人が希望するときには、本人が直接申請しても構わないとされています。
自ら高年齢雇用継続給付金を申請する人は、在職中の事業所を管轄するハローワークへ2ヶ月ごとに出向いて申請します。郵送での申請はできません。
なお申請の際には労働者名簿や賃金台帳など、事業主が用意する書類も添付が必要になるため、会社が申請手続きを行ってくれるのであればお願いした方が無難です。
給付金を申請する際の注意点
申請手続きをするのが会社であれ個人であれ、給付金の申請をするか否かを決断するのは再雇用された本人です。
しかし申請を決断する前には、いくつかの注意点を考慮しておく必要があります。
以下4つの注意点をチェックし、実際に給付金申請をするかどうか十分に考えましょう。
雇用保険に通算5年以上の加入が必要
高年齢雇用継続給付金は雇用保険の制度ですので、雇用保険に加入していない人はそもそも給付金の対象にはなりません。
《雇用保険に加入していない人の例》
・個人事業主
・会社役員
・地方公務員
・パートタイマー(勤務時間が週20時間未満)
上記の就労形態を長く続けてきた人は、高年齢雇用継続給付金が申請できない可能性があります。
ただし60歳に到達した時点では雇用保険の未加入者でも、過去に通算5年以上の加入期間があれば申請可能です。自分の雇用保険の加入履歴をよく調べてみましょう。
また再雇用時には加入期間が5年に満たない人でも、その後に雇用保険に加入して通算5年になれば、その時点から受給資格が発生します。
65歳までしか受給できない
高年齢雇用継続給付金の支給は、申請者が65歳になった時点で終了します。
60歳定年制の会社に勤めていた人は最大5年間の受給が可能ですが、62歳定年制の会社に勤めていた人は最大3年間しか受給できません。
なお、2021年4月に改正される高齢者雇用安定法に基づき、2021年4月以降はすべての事業者に65歳までの雇用確保措置が義務付けられる予定です。
つまり上記で説明した2025年以降の段階的縮小・廃止予定とあわせ、高年齢雇用継続給付金の支給は今後終息する流れになります。
他の再雇用手当や給付金と併用できない
高齢者が働く上で役に立つ給付金は、高年齢雇用継続給付金以外にも存在しています。
《給付金の例》
・介護休業給付金 → 家族の介護をするために休職したときに、賃金の約67%が最大93日間まで支給される給付金
・再就職手当 → 失業保険を受け取っていた人が再就職したときに、失業保険の残存給付日数が3分の1以上残っているときにつく手当
高年齢雇用継続給付金を受給している人は上記の手当や給付金が申請できません。
また逆に、上記のような各種手当・給付金を受給している人は、高年齢雇用継続給付金の申請ができなくなります。
自分の状況にあわせ、どの手当や給付金を申請するのがベストなのかを見極める必要があります。
年金が減額される
老齢厚生年金を受給している人が高年齢雇用継続給付金を受給した場合、老齢厚生年金の一部が支給停止されます。停止される年金額は標準報酬月額の1.8%~6%です。
また、60歳以上で働くことによる在職老齢年金の減額も考えられるため、高年齢雇用継続給付金を受給するとかえって損になるケースもあり得ます。
画像引用:日本年金機構|年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整
なお失業保険の一種である高年齢求職者給付金の方は、受給しても年金額には影響しません。詳しくは以下の記事をご参照ください。
まとめ
今回は、定年後の再雇用や再就職の際に役立つ給付金について解説しました。
いくつになっても仕事を続けられるよう、国は給付金の制度によって高齢者の継続就労を支援しています。
仕事には経済面の向上だけでなく、社会参加や生きがい作りとしても有効な手段です。
再雇用時にもらえる給付金制度を活用しつつ、定年後もできる限り長く働いて経済面の安定と社会参加を図りましょう。