- 7ヶ月以上の年金未納を続けると所得次第で差し押さえの対象になる
- 督促状が届いたら未納分と延滞料を一括納付しなければならない
- 支払いが難しい場合は「最終催告状」までの段階で免除・猶予の相談をする
年金は、国民保険とならぶ社会保障の柱の1つです。加入者には掛け金の納付が義務付けられており、未納のまま放置しておくと財産を差し押さえされる可能性もあります。
今回は、年金未納で財産が差し押さえになる流れと回避する方法を紹介します。
年金制度は賦課方式
日本の年金は賦課方式を採用しています。これは、現役世代が支払った年金保険料が、現在の高齢者に対する年金の原資に利用される仕組みのことです。自分の将来のためにお金を払う積み立て方式とは、お金の行き先が異なります。
年金が賦課方式を採用しているのは、「世代間の助け合いの思想」がもとになっているからです。自分1人で完結できる積み立て方式と異なり、賦課方式を安定して続けるためには、「現役世代の掛け金」と「年金受給者への給付」がイコールになる必要があります。
年金の弱点は「少子化」
賦課方式の弱点は、「少子化」です。現役世代の人数が減ることで掛け金総額が減少した場合、年金受給者にお金を支給するには「年金保険料の増額」や「年金支給額の減額」が必要になります。
政府としては掛け金を上げないよう、公的資金を投入します。また、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が年金原資を運用して、得た利益を補填をしているのが現状です。
年金保険料の確保が当面の課題
積み立てと比較して現行の賦課制度が優れているのは、「生涯にわたって年金が受け取れる」ことです。積み立ては、自分が積み立てた分に運用益を足した分までしか受け取ることはできません。一方、賦課方式は生きている限り生涯にわたって受け取ることが可能です。
原則通り65歳から年金の受給を開始したとして、月収30万円の既婚の会社員なら(妻の受け取り分を含めて)72歳、独身の会社員でも75歳を目途に年金受給額が掛け金を上回るという試算もあります。また、国民年金のみを満額で受け取れる人の場合、75歳を過ぎれば受給額が掛け金を上回ります。
ただし、少子高齢化が進んだり、未納者が多くなったりすることでカバーできなくなると、現行通りの支給を続けることはできません。「掛け金の増額」「受給開始年齢の引き下げ」等によって損益分岐点が悪化する可能性もあります。
厚生労働省の「平成30年度の国民年金の加入・保険料納付状況」によれば、平成30年度の納付率は25~29歳が最も低く、56.32%しかありません。
厚生年金は自動徴収されるため、20代後半の第1号被保険者のうちの半分近くが納付していないことになります。
「納付率」を少しでも100%に近づけることが、当面の年金制度の課題なのです。
掛け金よりも増える可能性が大きい年金
厚生労働省が発表する平成30年の「簡易生命表」よると、男性の平均寿命は「81.25歳」、女性の平均寿命は「87.32歳」とされています。損益分岐点から考えれば、国民年金にしろ厚生年金にしろ、掛け金より多くの金額を受け取ることが可能です。
一方、未納を繰り返して国民年金の納付期間が10年に満たない場合は1円も受け取れません。65歳から15~20年以上の長きにわたって受け取れる年金を、自らの意思で捨ててしまっているのです。
さらに、年金の未納を続けることで、資産の差し押さえの対象とされてしまう場合もあります。
年金未納の実態
「平成30年度の国民年金の加入・保険料納付状況」によると、平成30年における世代全体の年金納付率は68.1%です。平成26年度の63.1%から、年を経るごとに右肩上がりで納付率が上がっています。
これは、年金機構の地道な取り組みが功を奏した結果と言えるでしょう。現在では、わずかに未納があってもすぐに連絡が来ます。未納を繰り返す人に対しては、徐々に厳しい文言に切り替えていくことで粘り強く納付を促します。
未納者と滞納者の違い
平成30年の世代全体の保険料納付率は「68.1%」です。裏を返せば、3人に1人程度の人数が納付していないことになります。
ただし、この数字は滞納者だけでなく、未納者全体を見た数字です。年金保険料の「未納者」と「滞納者」は以下のような違いがあります。
- 未納者=免除や猶予を受けているものを含む。払える能力がない人
- 滞納者=払える能力があるのにも関わらず払っていない人
本当の意味で年金を払っていないのは滞納者の方です。2018年に厚生労働省から発表された「2018年の厚生労働省年金局・日本年金機構『公的年金制度全体の状況・国民年金保険料収納対策について」によれば滞納者は全体の2%にしか満たないものの、人数で表すと157万人も存在します。
年金未納者には督促状が届く
国民年金を滞納した場合、日本年金機構から督促状が届きます。
収入が不十分なために払えない場合は減免の相談に応じることもりますが、払える能力があると判断された場合は強制徴収の対象です。
最終的に財産の差し押さえまで行くケースも
年金保険料の支払いを滞納すると、最初は簡単で弱い細則によって保険料の支払いを促されます。催促を無視して滞納を続けることで、催促のレベルが上がっていき、最終的に財産の差し押さえまで進むこともあるのです。
強制徴収に至る基準
強制徴収の対象になる条件は毎年見直されますが「年間所得」と「滞納期間」で対象者が決定される点は共通しています。
平成30年は「控除後所得額300万円以上」かつ「未納期間が7ヶ月以上」でした。平成26年は「控除後所得額400万円」「13ヶ月以上」だったことを考えると、年を追うごとに強制徴収の基準は厳しくなっていると言えます。
差し押さえまでの流れ
年金を未納したからと言って、すぐに係官が家に訪れることはありません。最初は軽い段階から催促が始まり、そこで払えば催促が終わります。滞納を続けることで、日本年金機構側の対応も厳しいものとなるのです。
本来であれば、この時点で未納分を支払うことが望ましいでしょう。
「期日までに年金保険料を納めてください」という内容とともに、「財産を差し押さえることがある」という「差し押さえ」に関する記載が初めて登場します。
未納分の年金を支払う意思があるのなら、ここが最終ラインです。なぜなら、ここで未納年金を支払えば、分割しての納付が認められるからです。また、最終催告状を持って窓口に行くことで、免除や猶予の相談にも応じてもらえます。
なお、最終催告状送付の段階では、未納者本人・世帯主・配偶者の所得額が調べられます。
最終催告状の指示に従わず、所得調査の結果から十分な支払い能力があると判明した場合には、資産等の差し押さえに向けた最終的なプロセスに突入します。
「期限までに支払わない場合は延滞料が発生する」「滞納者以外の連帯納付義務者(世帯主や配偶者)の財産を差し押さえる」という旨が記載されています。
この段階までくると、通常通りの方法で年金保険料を支払うことはできません。分割納付も認められず、年14.6%延滞料も含めて一括で支払う必要があるのです。
督促状を無視していると、差し押さえるために家庭財産の調査が始まります。
預貯金が差し押さえられるだけでなく、保険の解約返戻金も対象です。
財産を差し押さえられないための対策
財産の差し押さえは、本人だけでなく「配偶者」や「世帯主」から徴収も可能です。未納によるトラブルが家族にバレるだけでなく、家族の財産がいきなり差し押さえられることになります。
両親・配偶者に無用な心配・迷惑をかけないためには、差し押さえを回避しなければいけません。
差し押さえの回避方法
財産を差し押さえられないための最終ラインは、「最終催告状」です。これが届いた時点で、速やか年金事務所に相談に向かうことで差し押さえを回避することが可能です。
それを超えて「督促状」まで進んでも年金を納めることはできますが、延滞料も含めて滞納金額全体を一括で払う必要があります。まとまったお金が用意できないことで、「払う意思があるのに払えない」という状態になりかねません。
払えない時は公的な免除・猶予を活用する
「最終催告状」の段階までなら分割での支払い・免除・猶予の相談に応じてもらえます。延滞料も発生せず、支払金額が増えることもありません。
どんなに遅くても「最終催告状」、できるなら「特別催告状」が届くまでの段階で未納分を納付するか、年金事務所に出向いて免除等の相談をするのが望ましいです。
まとめ
今回は、「年金の滞納者が財産を差し押さえられるまでの流れ」と「差し押さえされないための対策」を紹介しました。
国民年金は厚生年金と違って全額を自分が支払うため、将来の年金不安から滞納してしまう人が多くいます。ただし、払わない人が多くなれば年金制度が破綻し、将来的に自分の首を絞めてしまいます。
年金制度の趣旨を理解し、催促される前に保険料納付の義務を果たしましょう。