- 高齢者の耳が遠くなる原因1位は加齢性難聴
- 加齢性難聴以外の原因によっても耳は遠くなる
- 耳が遠い高齢者にはさまざまな危険とリスクがある
年を重ねると、多くの人が経験するのが「耳が遠くなる(聞こえが悪くなる)」という現象です。
この現象は、一般的に知られているものの、そのまま無視しがちです。しかし、耳が遠くなることは放置すべきではないことがわかっています。なぜなら、耳が遠いままでいるとさまざまなリスクが伴う可能性があるからです。
この記事では、高齢者の耳が遠くなる原因について説明し、高齢者が直面する可能性のあるリスクについても触れ、最後に、耳が遠い高齢者のためにできることについて解説します。
後期高齢者の半数以上は耳が遠い
75歳以上の後期高齢者の半数以上は耳が遠い状態であると考えられています。
日本補聴器工業会が2022年に行った調査によると、日本国内で難聴を自覚している方の割合は10.0%です。それに対し65歳以上の前期高齢者は14.9%の割合、そして75歳以上の後期高齢者になると34.4%もの人が耳が遠さを自覚しています。
画像引用:一般社団法人 日本補聴器工業会|APAC Trak JapanTrak 2022 調査報告
ただし難聴には痛みや不快感などの症状がなく、自覚症状がないままにいつの間にか耳が遠くなっている可能性があります。
そのため、調査結果よりも多くの方が耳が遠くなっていることが考えられます。
ひとり暮らしの高齢者が大音量でテレビを視聴していて、訪れた家族がびっくりするようなことがあるかもしれません。
高齢者の耳が遠い主な原因は加齢性難聴
なぜ高齢になるにしたがい、耳が遠くなるのでしょうか。
高齢者の耳が遠くなる原因の多くは、加齢性難聴という耳の機能の衰えが原因です。
加齢性難聴とは耳の蝸牛にある有毛細胞が加齢によってダメージを受け、音を感じるために必要な聴毛が抜け落ちてしまうことで起こる感音難聴です。
画像引用:一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会|聞こえのしくみ
また、有毛細胞のダメージ以外にも、内耳から脳への神経経路に障害が起きたり、認知機能の低下によって加齢性難聴が発生する可能性があります。
加齢性難聴以外で耳が遠くなる原因
高齢者の耳が遠くなる原因は、加齢性難聴だけではありません。
以下からは、加齢性難聴以外の原因によって高齢者の耳が遠くなる原因を説明します。
慢性中耳炎
慢性中耳炎とは、中耳に炎症が起きて膿が溜まり難聴などの症状を引き起こす病気です。急性中耳炎が慢性化することが原因で起こることが多いです。
また慢性中耳炎の中でも、鼓膜の一部が内側にへこんで耳垢が溜まるために起こる真珠腫性中耳炎は、治療せずに放置すると難聴だけでなく顔面神経麻痺や髄膜炎など深刻な病気に進行する危険があります。
耳が遠い原因が真珠腫性中耳炎の場合には、直ちに治療が必要です。
耳硬化症
耳硬化症(じこうかしょう)とは耳小骨の奥にあるアブミ骨の動きが悪くなり、だんだん音が聴こえづらくなる進行性の病気です。耳が遠い以外にも耳鳴りやめまいなどの症状が起こります。
耳管狭窄症
耳管狭窄症(じかんきょうさくしょう)とは、耳と鼻をつなぐ耳管が圧迫されて音が聞こえにくくなる病気です。耳詰まりや耳鳴りの症状も起こります。
風邪やアレルギーにより鼻や喉に炎症が起きたときや、気圧の急激な変化によって発症しやすくなります。
突発性難聴
突発性難聴とは、ある日突然に片耳の聞こえが悪くなる病気です。極まれには両耳に発症する場合もあります。
突発性難聴を発症する原因はまだ解明されていませんが、突発性難聴になった直後は耳鳴り・めまい・吐き気などの症状もあらわれます。
メニエール病
メニエール病は体の平衡感覚を保つ内耳にリンパ液が溜まることにより、重度の回転性めまいや吐き気が起こる病気です。症状のひとつとして突然に耳が聞こえにくくなります。
疲労・ストレス
疲労やストレスは自律神経を乱すため、自律神経の乱れによって起こる耳の病気の原因になります。
突発性難聴やメニエール病の発症も、疲労やストレスが一因です。また20~40代の女性がストレスによって発症する低音障害型感音難聴の原因にもなります。
耳垢
溜まった耳垢が外耳道を詰まらせたことが原因で耳が遠くなることも考えられます。
耳垢は放っておいても自然に排出されますが、耳掃除をするときに耳垢を奥に押し込んでしまい、逆に耳垢が溜まって外耳道をふさぐ可能性があるため注意が必要です。
耳が遠い高齢者に起こり得る危険とリスク
耳が遠いだけなら生活に支障はないと、聴こえづらさを放置している方が大勢います。
しかし高齢者の耳が遠くなると、さまざまな危険やリスクが生じます。
ここからは耳が遠い高齢者はどんなリスクがあるかを説明します。
- コミュニケーションの機会が減少する
- 外出時の事故・トラブルが起きやすい
- 災害時の警報がわからない
コミュニケーションの機会が減少する
耳が遠いと会話をするのが面倒になり、家族や身近な方ともあまり言葉を交わさなくなります。
ただでさえ他者との関りが減少している高齢者にとっては、たわいもない会話を交わすことによるコミュニケーションの機会が減少することは重大な問題です。自分の殻に閉じこもりがちになり、孤独感を深めて老人性ウツなどを引き起こす可能性があります。
外出時の事故・トラブルが起きやすい
耳が遠くなると周囲の音を認識しにくくなるため、車のクラクションや誰かの警告に気付かず事故にあいやすくなります。
また米ジョンズ・ホプキンズ大学の研究によれば、軽度の難聴でも健聴者に比べて転倒の危険性は3倍に増加するとのデータがあります。もともとバランス能力や歩行能力が低下している高齢者が、耳が遠いことによって転倒リスクがより高まるということです。
災害時の警報がわからない
災害が発生して避難が必要になったときには、自治体の防災無線などで避難勧告が呼び掛けられます。
しかし耳が遠いとサイレンや防災無線の放送が聞こえず、状況の把握が遅れて避難できなくなる危険性があります。
近隣に頼れる方がいない単身高齢者の場合には、周りが避難したのに気づかず一人だけ取り残されてしまうかもしれません。
音声による情報が伝わらないことは、特に災害が発生した時には深刻な影響を与えます。
耳が遠い高齢者は認知症の有償率が61%上昇
耳が遠い高齢者は認知症になりやすいというリスクもあります。
米ジョンズ・ホプキンス大学が2,413人の高齢者を対象に認知症の発症率を解析した結果、難聴者の有病率は健常者に比べて61%上昇していたことが判明しました。
認知症になる理由は難聴だけでなく、さまざまな要因が組み合わさって発症しますが、耳が遠いと発症する確率がより高まると考えられます。
画像引用:国立研究開発法人 国立医療長寿研究センター|耳が聞こえにくいと認知症になりやすい?
認知症については以下の記事も参考にしてみてください。
耳が遠い高齢者の75%が耳鼻咽喉科を未受診
耳が遠いといろいろなリスクがあるにも関わらず「年だから耳が遠いのはあたりまえ」と難聴を放置している高齢者が多いのが現状です。
2019年に愛知県一宮市で行われたアンケート調査によれば、難聴により社会的に孤立している可能性がある状態なのに耳鼻咽喉科への受診をしていない高齢者が75%もいました。
参考
一人暮らし高齢者の難聴自覚と補聴器使用状況J-STAGE(科学技術情報発信・流通総合システム)
高齢者が安全に生活するためには、耳の遠さを放置せず早期に対策しなければいけません。
聞こえの状態をチェックリストで確認
自分の耳が遠くなっているかどうかは、感覚的な問題のためなかなか気づけません。
耳が遠い状態を放置しておかないよう、自分や家族の聞こえかたについては定期的にチェックしましょう。
一般社団法人 日本補聴器販売店協会が作成した「聞こえチェック」のリストを使って、簡易的に耳の状態を確認することができます。
□会話をしているときに聞き返す
□後ろから声をかけられても気付かないことがある
□聞き間違いが多い
□話し声が大きいと言われる
□背後から接近する自転車に気付かない
□電子レンジなどの電子音が聞こえない
□耳鳴りがある
聞こえの状態により耳鼻咽喉科を受診すべきかどうかは、以下チェック項目の数でご確認ください。
チェック1~2個 | 実生活で困ることがあれば耳鼻咽喉科で相談しましょう |
チェック3~4個 | 耳鼻咽喉科で相談がおすすめです |
チェック5個以上 | 早急に耳鼻咽喉科を受診してください |
なお上記のチェックリストはあくまでも目安です。もしチェックした項目がひとつもなかったとしても、気になる点があれば積極的に耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。
耳が遠い高齢者にできる対策とは
耳が遠いことを放置せず、高齢者に存在し得るリスクを回避するためにはどうしたら良いのでしょうか。
自分や家族の耳が遠いようだと感じたら、まずは耳鼻咽喉科を受診し現在の状態をきちんと診断してもらってください。検査により聴力の低下が見られたら、医師の指導のもと補聴器を装用して正常な聞こえの状態にすることがもっともおすすめできます。
また補聴器の使用以外にも、できる対策があります。補聴器以外の難聴対策は以下の記事を参考にしてください。
まとめ
今回は高齢者の耳が遠くなる原因や、耳が遠いことによって生じるリスクについて解説しました。
高齢になると耳が遠くなる方は多いですが、多いからといって放置すべき問題ではありません。
定期的なチェックと対策を行い、高齢者をさまざまな危険から守りましょう。