- 子供のいない場合の法定相続人は配偶者と親または兄弟姉妹
- 夫婦の貯金も個人名義なら遺産分割の対象
- 自筆証書遺言も法務局で保管可能
- 配偶者に自宅を相続させたいなら「持戻し免除」の記載を
- 夫婦一緒に遺言書を書くことはできない
子供のいない夫婦には、子供のいる夫婦とは少し異なる相続問題があります。
夫か妻が先立ったとき、遺された方にはその後の生活を支え合ってくれる子供がいません。それに、遺された方は、血のつながらない相手側の親族と遺産について話し合わなければいけません。
「一人で遺されるパートナーに負担をかけず、十分な遺産・安心した生活を遺したい」と思ったら、遺言書の作成をしておくと安心です。子供がいないからといって、何をせずとも遺産の全てが配偶者に相続できるとは限りません。
そこで今回は、子供のいない夫婦こそ遺言書が必要な理由と遺言書を作成する際のポイントを解説します。
子供のいない夫婦にこそ「遺言書」が必要な理由とは?
子供がいない夫婦で以下のような希望がある場合は、遺言書を遺しておく必要があります。
- 配偶者に全財産を遺したい
- 親とは絶縁状態で、できるだけ遺産を親に遺したくない
- 兄弟姉妹に遺産を渡さず、配偶者に全財産を遺したい
- 親にも十分な遺産を遺したい
- 法定相続人以外の人にも遺産を遺したい
遺言書が必要な理由を詳しく見ていきましょう。
子供がいなくても、その他の法定相続人が存在する場合もある
法定相続人とは、民法で定められた相続人のことです。法定相続人になれるのは、「配偶者」と「血族」です。
配偶者は、生きていれば必ず法定相続人になれます。一方、血族の法定相続人は、生きている人の中で優先順位の高い人が選ばれます。
子供のいない人が被相続人(故人)の場合には、配偶者とは別に「①両親・祖父母など直系尊属」、または「②兄弟姉妹」が法定相続人になります。
兄弟姉妹の中ですでに亡くなっている人がいれば、代わりにその子供(甥・姪)が代襲相続人となります。
親には遺留分があるが兄弟にはない
遺留分とは、法定相続人に最低限認められる相続分のことです。
両親や祖父母など直系尊属には遺留分が認められます。そのため、法定相続人に親などがいれば、配偶者に全財産相続させたくても、遺留分を請求され、全財産相続できない可能性があります。
一方、法定相続人が兄弟姉妹と配偶者の場合には、遺留分がありませんので、遺言書を書いていれば配偶者が全財産相続することができます。
配偶者の親族と相続問題を話し合うのは大変
子供のいる夫婦であれば、夫または妻の相続人になるのは、その配偶者と子供です。この場合、親子で遺産を分け合うので、話し合いは比較的進めやすいでしょう。
しかし、子供のいない夫婦の場合は、そうはいきません。遺された配偶者は、亡くなった夫・妻側の親族と遺産分割協議をしなくてはいけません。
配偶者と親族は元は他人ですから、意見が合わなければ話し合うのは大変です。最悪の場合、裁判沙汰になることもあります。
遺される配偶者に苦労をかけないために、遺言書を遺すことがとても大切です。
配偶者にどんな生活を遺したいかが大切
前項の通り、配偶者は故人の親族の中で一人だけ他人ですから、思い通りの自己主張ができるとは限りません。協議の進行によっては、「配偶者が自宅を手放す必要がある」など、これまでの生活を続けられない事態も起こり得ます。
また、「老後のため」と夫婦2人でコツコツ蓄えた貯金も、故人の名義であれば、遺産分割の対象になってしまいます。
将来パートナーが安心して生活を続けるためにはどのような相続方法にすればいいか、考えておく必要があります。
どちらが先立つかわからない
子供のいない夫婦にとって大きな問題は、「どちらが先立つかわからない」ことです。
子供がいれば、「後のことは任せられる」「親子で支え合ってくれるだろう」という安心感があります。
しかし、子供のいない夫婦の場合には、どちらかの死後、ひとりの生活が始まります。遺されるパートナーに十分な蓄えがない場合は、相続財産に頼ることになります。
パートナーが生活に困らないようにするためには、遺言書によって相続方法をきっちり指定しておくことが必要です。
まずは正しい遺言書の書き方を確認
遺言書作成の代表的な方法として以下の2つの方法があります。
- 公正証書遺言
- 自筆証書遺言
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場で公証人が作成し、公証役場で保管してもらえる遺言書です。遺言書のプロが作成・保管してくれるため、書式・形式の不備で無効になることはありません。
ただし、相続額と相続人数に合わせて手数料などの諸費用がかかります。また、証人を2名用意する必要があり、法律事務所などに依頼すると追加費用がかかります。
公正証書遺言の作成方法
- 本人の原案をもとに公証人と内容確認・相談
- 必要書類の手配・提出
- 証人2名の手配・日程調整
- 当日公証役場にて本人確認
- 遺言者が公証人に遺言内容を伝え、公証人が記述
- 公証人が作成した遺言書を読み上げる
- 内容確認後、全員で署名押印
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、自分で作成する遺言書です。費用もかかりませんし、誰かに内容を知られることもありません。
ただし、法的に有効な遺言書にするためには、正しい書式・形式で作成されなければいけません。不備があると、最悪の場合は無効となってしまいます。
自筆証書遺言の正しい形式
- 財産目録以外は全て本人が手書きする
- 日付を記載する
- 署名押印する
- 訂正箇所には押印する
自筆でも法務局で保管可能に
法改正により、2020年7月10日から自筆証書遺言も法務局で保管できるようになりました。自宅で保管すれば開封時に改訂裁判所での検認手続きが必要ですが、法務局で保管すれば検認不要です。費用も1件3,900円で、公正証書遺言作成よりずっと安く済みます。
【ケース別】子供のいない夫婦の遺言書の文例
全財産を配偶者に相続させたい場合
遺言書は基本的に法定相続分より優先されるので、法定相続とは違う相続方法をさせたい場合に役立ちます。
全財産を配偶者に相続させたい場合は、下記のように記載します。
※「○○」に氏名を記載する。
ただし、法定相続人に両親や祖父母がいれば、遺留分を請求される可能性があります。できるだけ配偶者に多く残したい場合には、生命保険などを活用するのも選択肢の一つです。
なお、法改正により遺留分の支払いは「現金のみ」となったため、遺留分を請求された場合に備えて財産を指定する必要はなくなりました。
特定の財産を配偶者に相続させたい場合
自宅不動産を配偶者に相続させたい場合、配偶者がその他の遺産から受け取れる額は減ってしまいます。
しかし、「特別受益の持戻し免除」制度を使えば、遺産分割の対象から自宅を除外し、その他の遺産をより多く受け取ることができます。
特別受益とは、生計の資本となる生前贈与や遺贈などで、「配偶者の自宅相続」はこれに該当します。特別受益は、通常、相続財産に含まれます(特別受益の持戻し)が、遺言書により意思表示をすることで、持戻しの免除が適用できます。
第1条 遺言者は、下記の不動産を妻○○(生年月日)に相続させる。
<不動産の表示>
第2条 遺言者は、妻の今後の生活費を考慮して、民法第903条第1項に規定する相続財産の算定に当たっては、前条の遺贈にかかる不動産の価額は相続財産の価額に含まれないものとする。
相続させたい配偶者が先に死亡した場合
遺言書によって相続人を配偶者に指定しても、配偶者が先に亡くなったら、その遺言書は意味をなさなくなります。
そこで、配偶者が先に死亡した場合を想定して、あらかじめ遺言書に代わりの相続・遺贈の方法を指定しておくといいでしょう。
そうすれば、遺言書の書き直しをしなくて済みます。また、事故などで2人同時に亡くなった場合にも備えられます。
第1条 遺言者は、遺言者の有する全ての財産を、夫○○(生年月日)に相続させる。
第2条 遺言者は、夫○○が遺言者の死亡以前に死亡したときは、前条により夫に相続させるとした財産を、遺言者の友人○○(生年月日)に遺贈する。
前妻前夫・愛人との間に子供がいる場合
子供のいない夫婦でも、前の配偶者との間には子供がいる、というケースがあります。夫婦関係は解消していても親子関係は解消されませんので、前妻・前夫の子供は法定相続人になります。
また、愛人との間に子供がいる場合は、「子供を認知しているか」がポイントです。母親は自ら産んでいるため認知は必要ありません。問題は、父親が被相続人(故人)の場合です。
生前に認知の手続きをしたり、遺言書で認知をしていれば、非嫡出子であっても嫡出子と同じく法定相続人となり、相続権や遺留分を主張できます。(父親の死後3年以内なら、子供が認知の申立てもできます。)
このように、現在のパートナー以外との間に子供がいる場合は、遺言書によって子供の相続分についても記載しておくといいでしょう。
第3条 下記の者は、遺言者と○○(住所・生年月日)との間に生まれた子であることを認知する。
<認知する子の住所・氏名・生年月日・本籍・戸籍筆頭者>
第4条 遺言者が認知した○○に、下記の財産を相続させる。
<財産の指定>
子供のいない夫婦の遺言作成で注意する点
連名の遺言書は無効
遺言書は、必ず本人が単独で作成する必要があります。これは、本人以外の関係者の意向に沿った遺言にならないようにするためです。
そのため、たとえ夫婦であっても、連名で1通の遺言書の作成はできません。共同の遺言書は無効となってしまいます。
兄弟姉妹への配慮も考えておく
兄弟姉妹が法定相続人である場合、遺留分は生じません。そのため、配偶者に全財産相続させることは可能です。
しかし、自分の死後も、葬儀や相続に関する話し合いなどで、遺された配偶者と兄弟の関係は続きます。両者の関係が良好に保たれ、遺産分割がスムーズに行えるよう、兄弟姉妹へもいくらか遺すなど配慮をしておくと安心です。
遺言執行者を指名しておく
遺言執行者には、遺言内容を実現するための手続きを行う役割があります。
相続が発生した際に、遺された配偶者が高齢であれば、諸々の手続きを行うのが困難な場合も考えられます。遺言執行者を任命していれば、当事者に代わり手続きを行ってもらえます。
また、相続人や遺族同士の争いに対処するなど、遺言者の遺志を確実に実現できるよう協力してもらえます。
遺言執行者には、信頼できる親族や知人、相続に詳しい弁護士などに依頼するといいでしょう。また、相続人自身が就任もできます。
最後に
「最後のラブレター」と言われる遺言書は、遺される配偶者の生活を守るためにとても大切です。
「まだまだ元気だから、遺言書はもう少し先」と考える方もいるでしょう。でも、夫婦のこれからの人生を安心して楽しく暮らすためにも、早めに作成し、将来への不安を取り除くことをおすすめします。
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