- 定年後再雇用の賃金は2~5割減が相場
- 「同一労働同一賃金」の考え方に沿っていれば賃金は会社と労働者で決まる
- 公的な給付を受けることで手取りを大きく減らさずに働ける
一般的に会社勤めの定年は60歳とされていますが、現在は労働者が希望すれば65歳まで継続して雇用することが法律で定められています。
しかし、「再雇用後は同じ仕事でも賃金がガクッと減るのでは?」と心配をしている人も多いでしょう。一体、どのくらい賃金が減らされるものなのでしょうか?
今回は定年退職から再雇用される場合の賃金相場と、賃金減額をカバーできる公的給付について解説します。
目次
再雇用時の給与年収|賃金の相場はいくら?
再雇用で今までの会社で働く場合は一度退職するため、労働契約は最初から交渉していくことになります。
数ある契約項目のなかでも特に気になるのは、やはり「賃金」でしょう。一体、どれくらいの賃金が減ってしまうものなのでしょうか?
定年後再雇用の給与は2~5割減が多い
独立行政法人労働政策研究・研修機構「60代の雇用・生活調査」によれば、定年に際して雇用継続前後の賃金が減少した人の減少率は41~50%がもっとも多い(24.2%)結果になりました。
次いで21~30%(18.6%)、31~40%(13.7%)と続き、賃金が2割~5割減少した人が半数を超えています。
画像引用:独立行政法人労働政策研究・研修機構|「60代の雇用・生活調査」32P
さらに、賃金が71%以上減った人が4.8%いることも注目に値します。この調査に回答した高齢者の20人に1人が70%以上の賃金低下を受けた経験があるということになります。
再雇用時の年収相場
半数以上の人が2割以上の賃金減少になっていることからも、再雇用制度において一般的には60歳時点よりも賃金水準を下げる設定が行われることになります。
減額幅に関しては前述の調査結果のとおり、20~50%の間になることが一般的です。
どれだけ賃金が減るかは会社の方針や労働者との話し合いでも異なりますが、なかでも基準値として考えられるのは「60歳時点から75%未満」でしょう。
詳しくは後述しますが、賃金が減少する高齢者は雇用保険で「高年齢雇用継続給付制度」を受けられます。これを活用する場合、60歳時点での賃金と比較して60歳以降の賃金額が75%未満でないと給付金の対象になりません。
公的制度を活用できれば会社は人件費を抑えられ、再雇用される側は手取りを大きく下げることなく仕事を続けられます。
このことからも、高年齢雇用継続給付制度が適用される「75%未満」が1つの基準になってくるのです。
再雇用時の賃金設定の考え方
一般的には再雇用で60歳到達時の75%未満の給与になると解説しましたが、必ずしもそうなると決まったわけではありません。
賃金が75%未満になっても、最終的に手取り額を増やせる制度もあります。
賃金減少を過度に恐れないためにも、再雇用時の賃金設定の考え方について知っておきましょう。
基本的には労使間で自由に決められる
定年間際の社員は勤続年数も長く、賃金額は若手や中堅と比較しても高いのが一般的です。定年後再雇用になって責任ある立場から退いたあとも同じ賃金となると、会社の人件費を圧迫しかねません。
そこで「同一労働同一賃金」の観点から賃金が下がることがあります。
原則として、再雇用される側と会社が合意すれば定年を機に賃金を下げることができ、一度退職して雇用契約がまっさらな状態ですから、契約内容は当人同士で自由に決めることが可能です。
つまり、仮に定年退職後も同じポストと責任をもって仕事をする場合は必ずしも賃金を下げなくても働くことができます。
公的給付を活用することで手取り額を大きく減らさずに働ける
基本的には同一労働同一賃金の考え方のもとで、あるいは会社の若返りのために、再雇用では賃金が下がるのが原則です。
しかし、賃金が減ったからといって、手取りもそのまま同じ割合で減るわけではありません。交渉時に労働者が知っておきたいのは、公的給付を活用することで減少した賃金をカバーできるということです。
高年齢雇用継続給付とは
高年齢雇用継続給付は、定年後の再雇用で給与が一定以上減額された場合に支給される給付金のことです。最長で65歳まで受け取れます。
給付の条件になるのは「60~65歳未満の一般被保険者であること」「60歳時点の賃金と比較して再雇用時の賃金が75%以下になっていること」の2つです。
支給率は再雇用後の賃金に対して最大15%であり、賃金と給付率の関係は以下のとおりです。
画像引用:厚生労働省|Q&A~高年齢雇用継続給付~
賃金低下率が61%以下で賃金が15万円になった場合、受けられる給付金の額は毎月22,500円になります。
在職老齢年金とは
在職老齢年金とは、60歳以降に厚生年金に加入しながら受け取れる厚生年金のことです。
受け取れる年金額が、月給や賞与などによって減額されていくほか、賃金が一定の金額を超える年金は全額が支給停止になります。
65歳未満なら年金基本月額と総報酬月額相当額の合計が28万円、65歳以上なら47万円を超える場合に年金額が減額されて支給されます。
減額・支給停止の計算式は年金基本月額と総報酬月額相当額によって分かれており、具体的には以下の4パターンです。
- 年金の基本月額28万円以下で、総報酬月額相当額が47万円以下=(基本月額+総報酬月額相当額-28万円)×1/2
- 年金の基本月額28万円以下で、総報酬月額相当額が47万円超=(47万円+基本月額-28万円)×1/2+(総報酬月額相当額-47万円)
- 年金の基本月額28万円を超え、総報酬月額相当額が47万円以下=総報酬月額相当額×1/2
- 年金の基本月額28万円を超え、総報酬月額相当額が47万円超= (47万円×1/2)+(総報酬月額相当額-47万円)
たとえば60歳未満が受け取る年金が月5万円で、総報酬月額相当額が33万円の場合は上記の1.に該当します。支給停止額の計算式は以下のとおりです。
(5万円+33万円-28万円)×1/2=5万円
月の停止額が5万円と算出されたため、年金は全額が支給停止になります。もし賃金が33万円より安くなれば、そのぶんの在職老齢年金を受けることが可能です。
賃金が2割と少し減って26万円になったと想定して計算してみましょう。
(5万円+26万円-28万円)×1/2=15,000円
このケースでは5万円のうち1万5,000円が支給停止ですが、残りの3万5,000円を受け取れます。
再雇用を期に賃金が減額されることで、繰上受給で年金を受け取ることができるのです。
なお、2022年4月からは60歳前半の支給停止基準額が28万円から47万円に引き上げられます。基本月額(年金月額)と総報酬月額相当額の合計が47万円以下ならば老齢厚生年金が減額しなくなるため、多くの人が満額の年金を受け取れるようになります。
再雇用時の賃金引下げは合法?違法?
基本的には合法
再雇用の賃金の引き下げに関して、そもそも「違法ではないのか?」と考える人もいるかもしれません。ただ、多くの企業で行われていることからも基本的には合法です。
再雇用後の賃金は法律に反しない範囲であれば、就業規則や個別の労働契約で企業側が自由に決める裁量があります。勿論、都道府県で設定されている最低賃金は守られている前提です。
再雇用ではいったん退職して新しい労働契約を結ぶという観点もあり、正社員から嘱託社員などへの雇用形態の変更や職務内容の変更などの理由によって賃金が下がることが違法ではありません。
正当性のない減額は違法
一方、定年の延長による継続雇用での賃金減額は「労働条件の不利益変更」にあたる可能性があります。
「労働条件の不利益変更」とは、賃金や労働時間、福利厚生などの労働条件を従業員に不利益な方向に変更することです。
たとえば特段の理由なく基本給を減額したり各種手当を減額したりすると、不利益変更に該当する可能性があります。
不利益変更を行うためには従業員の個別の同意が必要であることが労働契約法第9条で定められており、無断での不利益変更は違法です。
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
引用元:e-GOV|労働契約法
さらに大企業で2020年4月1日に施行済み、中小企業でも2021年4月1日より施行される「パートタイム・有期雇用労働法」や、2020年4月1日施行の労働者派遣法では同一労働同一賃金の考え方が盛り込まれています。
再雇用であっても、定年前と同じ責任や業務範囲であれば、正当な理由なく賃金を下げられません。賃金の引き下げの際は、それに伴って責任ある仕事から離れることを面接で確認しておきましょう。
まとめ
今回は、会社を定年退職した人が再雇用されるときの賃金相場と公的給付について解説しました。
2割から5割ほど減額されるのが主流ですが、高年齢雇用継続給付などの公的制度を上手に活用することで大きく手取りを減らさずに働くことも可能です。
退職後にどのような働き方でどれくらいの賃金を得られるのか、これを機に計算してみると良いでしょう。

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