【Excel版】エンディングノート(終活ノート)

定年後再雇用で人事担当が知っておきたいルールと給与設定のポイント

歩くサラリーマン

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高柳政道 Takayanagi Masamichi
高柳政道 Takayanagi Masamichi
ライター

生協の売り場責任者と保険推進リーダー、その後、メーカー営業として勤務。自身の老後資金不足への危機感からお金の勉強を開始。FP資格を取得した後、得た知識を周囲に還元するためにWebライター・コラムニストとして独立。1級ファイナンシャル・プランニング技能士とCFPの資格を保有し、「終活」「相続」「保険」「投資(iDeco・NISA)」などの分野に精通。老後に安心して暮らすための知識とノウハウに関して、豊富な執筆実績あり。 ▼保有資格 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R) DCプランナー2級

この記事のサマリ
  • 定年退職した社員が希望すれば65歳まで雇用する義務がある
  • 賃金は現役時代の75%未満の設定が一般的
  • 公的な給付を受けて働けるような賃金設定がポイント

人材不足が叫ばれている昨今、会社で長く活躍した人材を再雇用することは採用・教育コストの削減の面でもメリットが大きい制度といえます。

しかし、再雇用後の賃金設定に不安を抱えた人事担当者も少なくないでしょう。再雇用時は会社の人件費を圧縮しつつ、労働者も納得できる賃金設定が不可欠です。

そこで今回は、労働者を60歳以降に再雇用する場合の賃金設定の考え方の基本を解説します。
並ぶ初老男性 雇用主が定年後の退職者を再雇用するメリットとデメリット

再雇用等で65歳まで従業員を雇用する義務

雇用契約

定年後再雇用制度とは

定年後再雇用制度は継続雇用制度の1つで、高齢者雇用安定法により従業員の希望次第で定年退職後に新しく雇用契約を結ぶ制度のことです。

高齢者雇用安定法では、定年について以下のように記載されています。

第八条 事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。

引用元:e-GOV|高齢者等の雇用の安定等に関する法律

企業は従業員を60歳までは雇用することが前提のうえで、高年齢者雇用確保措置として「定年を65歳まで引き上げる」「定年を廃止する」「65歳まで継続雇用制度を導入する」といういずれかの改善措置を導入することが求められています。

法改正で70歳までの雇用が努力義務に

2021年4月から改正高齢者雇用安定法が施行されます。今回の改正では従業員が70歳になるまでの就労確保が企業の努力義務として盛り込まれているのが特徴です。

これまでの65歳までの雇用確保義務に加え、以下のいずれかの措置を講ずることが努力義務として定められています。

  1. 70歳までの定年引上げ
  2. 定年廃止
  3. 70歳までの継続雇用制度の導入
  4. 高齢者が希望するときは70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度
  5. 高齢者が希望するときは70歳まで「事業主が実施する社会貢献事業」「事業主が委託、出資する団体が行う社会貢献事業」に従事できる制度の導入

今までの定年後再雇用制度は自社での雇用が続くことが前提の制度でした。

一方、新設された就業確保措置では上記の4と5にあたる「雇用以外の措置」によって、雇用以外の働き方も可能になっています。

参考:厚生労働省|改正高年齢者雇用安定法が令和3年4月から施行されます

再雇用時の賃金・給与年収に対する考え方

悩む女性

基本の考え方は「同一労働同一賃金」

定年前と同じ職務や業務内容、責任の重さにもかかわらず賃金を下げる場合は「正当な理由のない引き下げ」にあたる場合があります。

再雇用であっても、あくまでも「同一労働同一賃金」の考え方が基本です。再雇用だからといって一律で賃金を下げて良いというわけではありません。

再雇用時は現役時代の50~70%の賃金が相場

独立行政法人労働政策研究・研修機構「60代の雇用・生活調査」という資料によると、定年後の再雇用でで雇用継続前より賃金が減少した人の減少率は41~50%がもっとも多い(24.2%)結果になりました。

次いで21~30%(18.6%)、31~40%(13.7%)と続いており、賃金が2割~5割減少した人が半数を超えています。

高齢者 賃金減少

画像引用:独立行政法人労働政策研究・研修機構|「60代の雇用・生活調査」32P

この結果から見て、世間一般では現役時代の半分から70%程度の設定が一般的といえます。

公的制度が適用される水準まで下げる

60歳で定年を迎えた後に再雇用した従業員の給与水準は、定年前の50~70%程度が一般ですが、どのくらい下げるかは企業によって判断は異なります。

考え方の基本は「公的制度が活用できる水準まで下げる」ということです。

特に雇用保険の高年齢雇用継続給付を活用するには、60歳時点の給与の75%未満になるという条件をクリアする必要があります。

利用できる公的制度は2つ

労働者との賃金の交渉の際、以下の2つの制度について説明することで「手取りは大きく下がらない」ということを理解してもらう必要があります。

  1. 高年齢雇用継続給付
  2. 在職老齢年金

高年齢雇用継続給付は定年後の再雇用で賃金が一定以上減額された場合、最長で65歳まで一定の給付金を受け取れます。支給率は最大で15%です。

在職老齢年金は60歳以降に厚生年金に加入しながら受け取れる年金です。

65歳未満の場合、年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が28万円を超えると年金額が徐々に減額されていきます。

たとえば60歳未満が受け取れる月あたりの年金が5万円で総報酬月額相当額が33万円の場合、上記の高年齢雇用継続給付に該当します。支給停止額の計算式は以下のとおりです。

(5万円+33万円-28万円)×1/2=5万円

停止額が5万円と算出されたため、年金は全額が支給停止になります。

逆に賃金が33万円を下回れば、一定の年金を受け取りながら働くことが可能です。

これらの制度を活用して再雇用前の賃金70%に減ったとしても減った分の一部をカバーすることが可能と分かれば、従業員が再雇用に納得しやすくなるでしょう。
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手当を合理的な理由なく支給しないのは違法

再雇用時は一度退職しているため、給与や待遇は最低賃金法などの法律に違反しない限りは企業側が自由に設定できます。

ただし、本人の能力や職務の責任の重さと比較して明らかに不当と判断される場合は違法です。実際に裁判になったケースもあります。

「一度退職して新しく雇用契約を結ぶこと」「職務範囲と責任の範囲が現役時代と再雇用後で異なること」が、賃金引下げのポイントです。

経営者の判断で個別の給与設定も可能

基本的には会社の人件費を引き下げつつ、労働者には最大限の手取りになるような賃金を設定することが望ましいですが、会社に多大な好影響を与えた社員に対しては給料をそのままにして継続雇用したいということもあるでしょう。

その場合は経営者の判断のもとで、現役時代と同様の給与設定を行うことも可能です。

再雇用の契約では会社と労働者が納得すれば、双方で自由に決められます。

定年の従業員を再雇用するメリット

コスト 棒

従業員が築いた人脈をまた活かせる

再雇用される従業員は長い期間に渡って働いていて、取引先と強固な人間関係を築いていることがあります。

「〇〇さんが勧めてくれるから買う」と言ってもらえる顧客が、従業員の定年退職を機に別の取引先に流れてしまうことが考えられます。

再雇用で現場に再登板してもらうことで、従業員が現役時代に築いた人脈を再び活かすことが可能です。

若手の教育者としても活用できる

若手社員を新しく雇用しても、一人前になるまでには相応の期間が必要です。現役社員がOJTで教えることも可能ですが、現役社員の作業が停滞することになります。

再雇用の人材を教育者に選定すれば、経験や知識を若手に伝えることで成長させることができるでしょう。

主力であるベテラン・中堅社員は業務に集中することで売り上げに影響を与えにくい点もメリットです。

採用コスト・教育コストの削減につながる

新しく若い人材を雇用する場合、まず雇用に関するコストがかかります。

たとえば求人情報誌に求人情報を掲載する場合、1週間で1万円以上の費用が必要です。

参考:タウンワーク|掲載料金表

合同会社説明会への参加費や採用パンフレットの印刷、製本など外注費用もかかります。加えて採用に携わる人事の人件費も必要です。

また、採用したあとも教育コストがかかります。教育する社員の人件費、外部セミナーへの参加費などが発生します。

産労総合研究所「2020年度 教育研修費用の実態調査」によると2020年度の従業員1人当たりの人材育成費用の予算額は39,860円です.

参考:産労総合研究所|教育研修費用の実態調査

経験豊富な社員を再雇用することで、これらのコスト削減につながります。

まとめ

今回は、定年を迎えた社員を再雇用する際の賃金設定の考え方を解説しました。

現役時代の50~70%程度に設定するのが一般的ですが、その根拠は「高年齢雇用継続給付」を受けられる水準が現役時代の75%未満の賃金であるためです。

手取りを大きく減らさずに継続して働けることを説明すれば、雇用側も労働者側も納得の上で再雇用契約を結べるでしょう。


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