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死期が迫った緊急時に作れる「危急時遺言」とは|手続き方法や注意点を解説

遺言 緊急

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高柳政道 Takayanagi Masamichi
高柳政道 Takayanagi Masamichi
ライター

生協の売り場責任者と保険推進リーダー、その後、メーカー営業として勤務。自身の老後資金不足への危機感からお金の勉強を開始。FP資格を取得した後、得た知識を周囲に還元するためにWebライター・コラムニストとして独立。1級ファイナンシャル・プランニング技能士とCFPの資格を保有し、「終活」「相続」「保険」「投資(iDeco・NISA)」などの分野に精通。老後に安心して暮らすための知識とノウハウに関して、豊富な執筆実績あり。 ▼保有資格 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R) DCプランナー2級

この記事のサマリ
  • 危急時遺言は命の危機が迫って通常の遺言を遺せない時に選べる方式
  • 遺言者の意志を証人が書面にまとめて家庭裁判所に提出する
  • 証人が3人必要など、通常の遺言よりも手間がかかる
  • 遺言者が通常の遺言を遺せる状態になって6ヶ月経過すると無効

遺言といえば、自分で署名・押印を行う「自筆証書遺言」や公証役場で作成する「公正証書遺言」などが一般的です。ただ、すでに生命の危機に瀕している場合、このような普通方式の遺言作成は難しいこともあるでしょう。

自分で遺言を遺せない危険な状態の場合には、緊急時に利用できる危急時遺言という選択肢もあります。

今回は緊急時に作れる遺言である「危急時遺言」の概要と、手続きの流れを解説します。

緊急事態の場合に利用できる2種類の遺言

遺言書

遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」といった普通方式のほか、緊急時に作れる「特別方式」の遺言もあります。

特別方式の遺言は、大きく分けて「危急時遺言」「隔絶地遺言」の2つです。

危急時遺言

危急時遺言は病気や事故などで生命の危機に瀕した方が、今すぐに遺言を用意しないといけない場合に緊急で作成できる遺言書の形式です。

署名・押印ができない遺言者が口頭で遺言を作り、証人が代わりに書面に残します。

民法976条1項に危急時遺言に関する記載があり、その通りに作成を進めないと有効ではありません。

第九百七十六条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。

引用元;e-GOV|民法

一般的な遺言書よりマイナーな存在で、現在は利用する方はあまりいません。ただ、遺言書がないことでトラブルになり、相続が進まない事例もあります。遺言の重要性は少しずつ浸透してきているため、今後は危急時遺言の件数は増えていくことも考えられるでしょう。

なお船舶の遭難を想定した船舶遭難者遺言もありますが、今回は一般危急時遺言について解説しています。

隔絶地遺言

隔絶地遺言は、遺言者が一般社会との交通が絶たれることで通常の遺言が作成できない場合に認められる方式です。

「伝染病隔離者遺言」「在船者遺言」の2つが存在します。

通常の遺言では緊急時に間に合わない場合がある

救急車

危急時遺言は、通常の遺言を作成していると間に合わないケースの場合有効です。通常の遺言は「自分で署名・捺印」などのアクションが必要であり、すでに命の危機にある方は作成することが難しいでしょう。

自筆証書遺言は作成に時間と手間がかかる

自筆証書遺言は名前のとおり、自筆での作成が必要です。2019年の法改正が行われたことで財産目録についてはパソコン・ワープロでの作成も可能になりましたが、それでも大部分は自筆しないといけません。すでに動けない方にはハードルが高い形式です。

また作成した遺言が無効になるケースもあります。

記載方法や訂正方法に細かな決まりがあり、間違いが見つかると遺言は無効です。遺留分(遺言によっても奪うことができない最低限の遺産取得割合)を侵害する内容だと揉めるケースも想定されます。

自宅で保管する場合は遺言が発見されずに遺志が伝えられない可能性もあります。

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公正証書遺言は料金が発生する

公正証書遺言はプロの公証人が遺言書を作成する方式です。自筆証書遺言と比べて内容と形式の正確性が高く、信頼性が高い遺言が作成できます。

ただ、公証役場に支払う手数料などの費用がかかり、欠格事由に該当しない2人の証人を用意しなければいけないハードルもあります。こちらも命の危機にある方には難しい方法でしょう。

緊急で遺言が必要になった場合の手続き条件

手続き

緊急で遺言を作成する際に作成できる危急時遺言ですが、民法の規定を守って作成する必要があります。

危急時遺言を作成する際の手続きの流れや条件は以下のとおりです。

  • 3人の証人立ち合いが必要
  • 遺言者の生命が危急の事態であることが条件
  • 遺言者の遺志を口授筆記する
  • 書面が間違いないか読み聞かせで確認
  • 証人による署名・捺印が必要
  • 裁判所への申述・承認を行う

3人の証人立ち合いが必要

危急時遺言の作成には、証人3人の立ち合いが必要です。ただ、承認には誰しもなれるわけではありません。推定相続人・受贈者・配偶者・直系血族など、相続における利害がからむ方や未成年などは証人にはなれません。

また、証人としてしっかり時間を取れる方を選定する必要があります。危急時遺言の場合、普通方式の遺言と比較して証人の役割が重要であるためです。

証人3人が口授・筆記・閲覧・読み聞かせ・署名押印まで全員が立ち会う必要があり、証人の拘束時間は公正証書遺言などと比較しても長くなります。

遺言者の生命が危急の事態であることが条件

危急時遺言を作成できるのは命の危機が迫っているときです。元気な方がこの方式を使って遺言を作成することはできません。自筆証書遺言や公正証書遺言など、普通方式の遺言を作成しましょう。

遺言者の遺志を口授筆記する

遺言を作成する際の流れは以下のとおりです。

  1. 証人3人の立ち合いで、その1人に遺言の主旨を口授で伝える
  2. 口授された証人が筆記する
  3. 口授された証人が筆記した内容を、遺言者と他の承認に読み聞かせる。または閲覧する
  4. 各証人が遺言の正確性を確認した後、遺言書に署名・捺印する

まず、遺言者が遺言の内容を証人に口授で伝えるところから始まります。それをもとに遺言の内容を書面にまとめるのが証人の役割です。

書面が間違いないか読み聞かせで確認

作成した遺言書の内容を遺言者に見てもらい、口述でも内容を伝えます。

このとき、遺言者が内容を理解して同意をしているかの確認も必要です。立ち合う3人の証人全員が、遺言者が納得している様子を確認する必要があります。

証人による署名・捺印が必要

3人の証人が遺言書の内容を確認できたら、自署で住所・氏名を記入した上で署名・押印を遺言者の目の前で行います。

裁判所への申述・承認

遺言書を作成してから20日以内に証人のうち1人または利害関係者から、家庭裁判所に遺言書を提出します。申立先は作成から20日以内に亡くなった場合は亡くなった場所を管轄する家庭裁判所、遺言者が存命していればその住所地の家庭裁判所です。

1~2ヶ月後に家庭裁判所から確認ができた旨の通知が届きます。

家庭裁判所の確認がされたときをもって、遺言書作成時にさかのぼって危急時遺言は完成です。その後、家庭裁判所の検印も必要です。

緊急時の遺言作成で必要になる書類

裁判所に危急時遺言の申し立てをするにあたって、必要な書類は以下のとおりです。

  • 申立人の戸籍謄本
  • 遺言者の戸籍謄本(亡くなった場合は除籍謄本)
  • 証人の住民票または戸籍の附票
  • 遺言書の写し
  • 遺言者が生存している場合は、医師の診断書

緊急時の遺言のデメリット・問題点

デメリット

危急時遺言は普通方式で遺言を遺せない時の手段として有効ですが、手続き面で注意点・デメリットもあります。

作成の手間は通常の遺言以上

緊急時に作成できる遺言は作成のハードルが普通方式よりも高いのがデメリットです。

まず、利害関係者ではない3人を証人として集めるのが高いハードルです。身内の人間が証人になることができないため、人によっては集められないことがあります。

証人以外の配偶者や実子が立ち会っても遺言の効力が失われると決まったわけではありませんが、遺言者の発言を誘導しようとした場合は効力を疑われる可能性があります。

実績がある法律事務所が少ない

危急時遺言は使用事例がほとんどなく、法律を知っている専門の士業事務所も限られます。

年間100件以上の遺言作成サポートを請け負うような法人であっても、危急時遺言について依頼を受けることはほとんどないようです。

万が一のことを考えて、通常の遺言から危急時遺言まで作成を任せられるような相続の専門家を見つけておくことも大事になるでしょう。

遺言者が元気になると無効になる

一般危急時遺言はあくまでも遺言者が命の危機に瀕していることが作成の条件です。

遺言者が普通遺言方式による遺言を遺せるようになってから6ヶ月生存した場合は、危急時遺言の効力はなくなります。

まとめ

今回は緊急時に作れる遺言である「危急時遺言」の概要と、手続きの流れを解説しました。

証人が3人必要であったり家庭裁判所の確認が必要だったりと、通常の遺言とは違う手続きを求められる上に対応できる専門家も限られます。

どうしても必要になったときを想定し、事前に危急時遺言に強い専門家を見つけておくことも検討しましょう。

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