- 現状ではデジタルで作成された遺言書は無効
- 自筆証書遺言の財産目録やデータ保管などの一部はデジタル化が始まっている
- デジタル情報を一括で残しておく「デジタル終活」も広まりを見せている
目次
遺言とは
自分の死後、財産の処分方法を書面で残すことが「遺言」です。遺言が書かれた書面を遺言書と言います。
遺言書を残す理由はさまざまですが、確実に思いを実現させるためには法的に有効な書類を残さないといけません。現状では、はじめからデジタルで作った遺言書は有効ではなく、民法で定められた方法に沿って手書きで作成します。
ただし、完全自筆・自宅保管が原則だった自筆証書遺言のシステムが変わってきている等、日本でもデジタル遺言が一般的になりつつあります。
米国では一部の州でデジタル遺言が有効
日本では無効のデジタル遺言も、米国の一部の州では有効です。2019年7月には、アメリカ統一州法委員会で「統一電子遺書法(e遺書法)」が承認されました。
例えばフロリダ州では、認定保管者が保管したデジタル遺言であれば実際の相続で有効とされます。パソコン上に遺言書を作成しただけでは有効にはならないものの、日本よりも法整備が進んでいると言えるでしょう。
日本でもデジタル遺言を認める流れが加速している
日本では、民法に規定された方法以外で作られた遺言は、依然として無効です。
ただし、2019年から少しずつ流れが変わりつつあります。「自筆証書遺言」について、以下の通り大規模な法改正が実現しています。
- 2019年1月13日施行の「相続法改正における自筆証書遺言の改正」
- 2020年7月10日施行の「法務局における自筆証書遺言保管制度」
法的に効力のある遺言
現在の日本で法的に有効とされている遺言書には、以下の3つが挙げられます。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
公正証書遺言と秘密証書遺言については、デジタルでの作成は一切できません。自筆証書遺言の財産目録部分など一部に限り、運用の見直しが始まっています。
自筆証書遺言
自筆によって作成・押印するタイプの遺言です。民法968条では、「自筆証書によって遺言をする場合は、遺言者がその全文、日付および氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と規定されています。
一方、財産目録などの一部についてデジタル作成がすでに認められています。2020年7月10日からは法務局による自筆証書遺言書保管制度が開始され、従来の作成・保管方法からは様変わりしています。
2019年1月13日に施工された「相続改正における自筆証書遺言の一部デジタル化」
自筆証書遺言を使って「特定の人に特定の財産を残す」場合、財産特定の項目の作成が必要です。これを財産目録といいます。
財産目録には金融機関名や口座番号、不動産の登記事項等(所在地・地目・地番・地積)を記載する必要があり、従来の法律ではこれらも自書しなければいけませんでした。
今回の法改正では、パソコンで作成した財産目録や預金通帳のコピー、登記事項証明書も有効になります。
ただし、自書でない場合は全てのページに署名と捺印が必要です。両面印刷で作った場合は、両面とも署名・押印をしてはじめて有効になります。
2020年7月10日に施工される「法務局における自筆証書遺言の保管制度」
現行法の自筆証書遺言では、遺言者の原本を遺言者か遺言者から委任された人が保管することになっています。しかし、2020年7月10日から施行される「法務局における遺言書等に関する保管制度」(遺言書保管法)によって、法務局での保管が可能になります。
ただし、保管申請の対処になるのは「自筆証書遺言」のみであり、「封をされていない、法務省令で定めた方式で作成されなければならない」等の諸条件を満たす必要があります。
保管を申請する場合、住所地もしくは本籍地又は所有する不動産の所在地を管轄する遺言保管所に、遺言者本人が申請を行います。申請を通過した自筆証書遺言は遺言書保管官によって画像データ化され、原本は厳重に保管されます。
また遺言保管所で保管される遺言書に関しては、検認作業が不要です。紛失の危険性を減らすことだけでなく、死後の手続きを簡略化して遺族の手間を減らす点でも、今回の保管方法の改正は有効です。
公正証書遺言
遺言者が公証役場の「公証人」に遺言内容を伝達し、公証人が遺言を作成する方法です。専門家のチェック・第三者の作成によって遺言が無効になるリスクを抑えられるのが特徴です。
また公証役場で保管されるため、遺言書が改ざんされることもありません。公証役場で保管されたことにより、検認も不要です。
デメリットとしては「公証人に作成を依頼する料金が発生する」「作成に時間がかかり、思い立った時にすぐ作れない」等があります。
秘密証書遺言
自筆証書遺言と公正証書遺言の中間に位置する方法です。遺言者が自分で作成した遺言書を公証役場に持っていき、間違いなく本人のものであることを明確にできます。公証人も遺言の内容を知らされないため、遺言の内容を秘密にできる点がメリットです。
ただし、公証人や専門家が内容を確認できないことから、遺言が不備によって無効になる可能性が残ります。遺言者の死後に検認手続きが必要などデメリットが多く、自筆証書遺言や公正証書遺言と比べたら一般的ではありません。
デジタル遺言の使い方
仮にメールなどの電子データで遺言を作成し、財産の受取人を指定したとしても、現行の法律では法的に有効にはなりません。現状でデジタル作成が有効なのは、自筆証書遺言の「財産目録」等一部のみに限られます。
かといってデジタル遺言が全く無意味かというと、そのようなことはありません。現在は数多くの情報がPC上やオンラインのクラウドで管理されており、これらの情報をひとまとめにしておけば、身辺整理を行う時に役に立ちます。
デジタルの情報をまとめて管理する「デジタル終活」
現代の生活を送る上で、インターネット・スマホ・PC等はなくてはならないツールです。このような情報はパスワードでロックがかかっているため、他人が簡単に情報を知ることはできません。
つまり、IDやパスワード等の情報を事細かに残しておかないと、万が一の時に誰も故人のアカウントにアクセスできなくなります。高額な有料サービスを解約しようにも、パスワードが分からなければ解約のしようがありません。
web上で締結した契約内容やアカウント情報・ログイン方法を文章にして残しておけば、残された遺族が遺品整理をする助けになります。このような形で情報を残すことを「デジタル終活」と呼びます。
デジタル終活の例1:ネット証券の口座情報を残す
ひと昔前は、貯金や投資と言えば実店舗をもつ金融機関・証券会社が主流でした。ところが現在、格安の手数料とスピード決済の強みを持つ「ネット銀行」「ネット証券会社」と呼ばれるインターネット取引専門の金融機関が主流になりつつあります。
普通預金の利息も都市銀行の10倍になる「楽天銀行」等を利用して貯金をする人も数多くいます。「SBI証券」「楽天証券」等の証券会社で投資をしている人もいるでしょう。
預金は有価証券は、相続の際に遺産分割の対象になります。しかし、故人のIDやパスワードが分からないと引き出すことはできなくなります。
また、ネット銀行・ネット証券は都市銀行や地方銀行と違って通帳が発行されないため、家族に存在を知らせておかないと、そもそも遺産として認識されない可能性もあります。
デジタル終活の例2:SNSや有料サービスの情報・パスワードを残す
FacebookやTwitter、Instagram等、誰しも1つはSNSアカウントを所持しています。これらのアカウントについても、本人の死後は遺族に削除してもらう必要があるでしょう。そのためにはアカウント・パスワードの情報が必要です。
定額の有料サービスを利用している場合も同様です。口座から定期的に利用料金が引き落とされて遺族の資産を圧迫してしまいますが、パスワード等の情報が無いと解約手続きに時間を要してしまいます。
「自分がどのサービスを利用しているのか」「アカウント名・パスワード・ログイン方法はどうなのか」といった情報をデジタルでまとめることで、遺族の負担を大幅に少なくすることが可能です。
もっといえば、作成したデジタル遺言を印刷し、預金通帳など遺族の目に留まりやすい場所に挟んでおくと紛失の心配もありません。
まとめ
今回は、日本におけるデジタル遺言が採用されている流れと、財産分与以外の情報を残すためのデジタル終活についても解説しました。
今後はデジタル情報の保管だけでなく、財産分与の内容もデジタル化する流れが加速する可能があります。遺言書作成に興味をお持ちの方は、常に最新の法改正の内容を確認することをおすすめします。

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